【書評】 『芸術新潮8月号』 新潮社
昨年6月、旧約聖書の特集を組んでいた『芸術新潮』が、今年は宗教改革500年記念として新約聖書の特集を組んだ。
第一部の「新・仁義なき聖書ものがたり」は、作家の架神恭介氏が『仁義なきキリスト教史』に続き、キリスト教を任侠団体に見立てて描いた小説。広島やくざ風にアレンジするという大胆な手法で、今度は四福音書をひも解く。その振り切った心地よさは健在。
一方で、名画と呼ばれるキリスト教絵画の数々や聖書の解釈にまで言及した冷静なコメントが付く。あえて落差を作る、そのバランス感覚に編集者の業が光る。『レッツ!!古事記』で独特の画風による古典の再解釈を試みた五月女ケイ子氏による「奇跡の一生を追え! イエスの人生すごろく」「新約聖書ざっくり相関図」も見逃せない。「教えて新約聖書! 波乱万丈イエスの一代記」で素朴な疑問に答えるのは聖書学者の廣石望氏(立教大学教授)。
第二部の「聖書と美術―新約版」では、聖母マリアからヨハネの黙示録まで、キリスト教を題材にした絵画を解説している。時代背景や宗教観によって、同じテーマが大きく変化することに今さらながら驚かされる。その変化の歴史は、人間の不確かさや不完全さをはっきりと目に見える形で示していると言える。
この「一般」向けの雑誌を手にし、「わしを男にしてつかあさい」などと言うイエス像に驚愕する「信者」もいるだろう。しかし、「一般」と「信者」を線引きし、線の外側を拒絶することだけは避けたい。なぜなら、そうした態度こそがキリスト教を「一般」社会から遠ざけているからだ。新しい視点に驚きながらも、驚く自分と「一般」社会との隔たりを自省する機会としたい。
むしろ、そこにこそ「信者」向けの雑誌が越えなければならない高く大きな壁があるはずなのだ。
【本体1,333円+税】
【新潮社】