『いのちの水』原画展 訳者、挿画担当の牧師らがイベント 2018年5月22日
昨年末に刊行され話題となった絵本『いのちの水』(新教出版社)の原画展が、5月9日から教文館3階のギャラリーステラで開かれている。11日には訳者の中村吉基氏(日本基督教団牧師)、挿画を担当した望月麻生氏(日本基督教団足利教会牧師)、渡邊さゆり氏(日本バプテスト神学校教務主任)によるトークイベントも催され、約30人が参加した。
もともとカナダの神学者トム・ハーパーが自著の序文として書いた物語を邦訳して機関紙「働く人」(日本基督教団伝道委員会)に紹介したのは、先月25日に逝去した榎本てる子氏(関西学院大学准教授)。説教や講演などでたびたびこの話を引用してきたという中村氏は、いつか日本でも多くの人に読んでほしいと願ってきた。
「読むたびに、自分も『特別な言葉』でキリスト教を伝えてしまったのではないかと反省させられる。絵本の結末について異論もあるが、読者一人ひとりに25枚目の絵(最後のページ)を描いてほしい」と呼びかけた中村氏。同書を友人の僧侶に紹介したところ、仏教関係者の間でも同書がブームになり仏教専門書店でも平積みにされていることを紹介し、「てる子さんの流した『いのちの水』が、わたしたちをつないでくれた」と故人を偲んだ。
「寓話の挿画なので、特定の宗教の色を出ないようにするのに苦労した」と創作の裏側を語った望月氏は、美術家の父を持つ身として味わった苦労を打ち明け、譲り受けた250色のパステルセットの中で50年間使われなかった色のパステルがあったことから、「『いのちの水』は聖なるものを囲っていくという物語。わたしも生かさなければならないものを自分の中に囲って、しまい込んでいたということに絵を描く中で気づかされた」と語った。
榎本氏の後輩にあたるという渡邊氏が、「水を求める声とそれを阻む力とは何なのかと思いめぐらしながら読んだ。地に落ちた涙や汗こそがわたしたちを生かすのではないか」と感想を語ると、司会の小林望氏(新教出版社社長)は出版に至った背景について、「神学を専門とする出版社として、本来は万人に対して開かれた神の恵みを枠の中に囲い込むような仕事をしてはいないかとの反省もあった」と応じた。
これらの発言を受けて、参加者も思い思いに絵本の感想を語り合った。
会期中は他にも、望月氏による消しゴム版画のワークショップが行われた。原画展は27日まで。23日には友野富美子氏(日本基督教団経堂緑岡教会牧師)による朗読ワークショップも行われる。