【宗教リテラシー向上委員会】 科学技術の進歩と宗教の未来 川島堅二 2019年10月11日

 毎年参加している日本宗教学会の公開シンポジウムで、昨年に引き続き理系の研究者をメインゲストに迎えたのが印象的だった。昨年はゴリラの生態研究で著名な生物学者だったが、今年はロボット研究の第一人者である石黒浩氏(大阪大学基礎工学研究科教授)を迎えた。

 「宗教と科学」というテーマは、宗教学でも古典的といってもいい。ただ従来のスタンスが科学の進歩に対していかに宗教を弁明するかという対立的なものであったのに対し、最近のトレンドは、宗教の理解というまさに宗教学の中心課題に理系の知見を積極的に活用する道を探るという、両者の対立ではなく協同関係の模索である。

 すでにこの連載でも僧侶の池口龍法さんが、石黒氏の設計によるアンドロイド観音について書いている(2019年3月21日付)が、このたびのシンポジウムでも石黒氏はアンドロイド観音や夏目漱石アンドロイド作成の経験に触れ、故人となって「想像するしかない人物が、アンドロイドとして蘇り、再び人々に影響を与えるということは、何か宗教的な意味を伴うのではないかと」述べられた。キリスト者であれば当然のことながら、歴史上の著名な聖人や神学者、説教者のアンドロイドに対面してみたいものだと考えるだろう。そして、技術的にはそれが可能な時代が到来しているのだ。

 さらに印象的だったのは、石黒氏がローマ教皇の前でも講演したという人類とアンドロイドの関係性についての壮大な歴史的展望だった。数十億年前に無機物から有機物、そして生命が誕生し、人類はその生命進化の頂点である。現在その人類に起こりつつあるのは、身体の一部を物質で置き換えていくプロセスだ。義手や義足、義歯という初期段階から、やがて血管や内臓などの内部器官、そして最後の砦が脳である。数十億年先には脳もAI(人工知能)に置き換えられるようになる。かくして無機物から発生進化した生命は無機物へと回帰していくと。石黒氏は何度も「数百年先のことではなく、数十億年という進化の時間単位での話ですから」と注意を促しておられたが、宗教者にとってもショッキングな展望だ。

 時を同じくして、台風15号の被害が刻々と報じられていた。千葉県では県内で災害が起こった場合、その状況を瞬時に中央に伝えるシステムが導入されていたといわれる。しかし、想定を超える暴風雨により送電線や電柱が倒れ、システムは機能せず、多くの地域が長時間、断水や停電に見舞われた。昔ながらの方法で、倒れた樹木を切り、電柱を立て直す人々の姿。そして先述したアンドロイド観音も5000万円の開発費をかけながらその「寿命」は数年と聞かされ、人間に関して宗教者が向けるべき関心は、数十億年先のことよりももっと足元にあるのかもしれないとも思わされた。

 また消費税増税直前の9月の話題は、駆け込み需要と共にキャッシュレス化の加速だった。カードやスマホ決済ならポイント還元などで一部商品については増税分が戻ってくるらしい。キャッシュレスは利便性もあるが、地元の商店街で9月末に廃業を決めた寿司屋の親方のこんな声も聞いた。「キャッシュレスの仕組みを導入するだけの資金がない」「現金決済が一番いい」と。とても美味な寿司を出す店だっただけに残念でならない。

 加速する科学技術との対話も重要だが、こうした声の側に立ち続けること――もしかしたら宗教の未来はそんなところにあるのかもしれない。

川島堅二(東北学院大学教授)
 かわしま・けんじ 1958年東京生まれ。東京神学大学、東京大学大学院、ドイツ・キール大学で神学、宗教学を学ぶ。博士(文学)、日本基督教団正教師。10年間の牧会生活を経て、恵泉女学園大学教授・学長・法人理事、農村伝道神学校教師などを歴任。

【宗教リテラシー向上委員会】 AIが開く仏教の未来 池口龍法 2019年3月21日

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