【宗教リテラシー向上委員会】 AIが開く仏教の未来 池口龍法 2019年3月21日

 京都市東山区にある高台寺では、このたび世界初のロボット観音が造立された。その名もアンドロイド観音「マインダー」である。像高は195cm。開発費は5,000万円といわれる。2月23日に開眼法要が営まれた時の様子が数多くのメディアで取り上げられたので、ご存じの方も多いだろう。

 私も最新鋭の仏像を拝むべく、数日前に参詣してきた。顔や手の部分こそシリコン製だが、体の大半はアルミニウム材がむき出しであるため、ネット上では「気持ち悪い」「怖い」との噂が寄せられていたが、ナマで拝むとグロさは感じられなかった。むしろ精密機器のプロポーションを美しいとさえ感じたし、木彫の仏像の均整美に代わる世界観へといざなわれた気がした。百聞は一見に如かずである。5月6日まで一般公開されているので、京都に来られる折があれば、ぜひ足を運んでほしい(要予約)。

 ところで、最先端のIT技術を駆使しようというのは、きっと若手僧侶らの発案だろうと勝手に思い込んでいた。しかし、意外なことに、世界的なロボット研究者として知られる大阪大学の石黒浩教授に「ロボットで仏像を作れないか」と持ち掛けたのは、他ならぬ後藤典生執事長(70)だった。石黒教授は「仏像を作っていいんですか」と感激して、今回のコラボレーションが実現するに至ったという。

 マインダーを拝みに来た人々に対して、後藤執事長は「観音菩薩は人々の求めに応じて何にでも変化します。だから、ロボットにだって変化するはず。でも、法話をするロボットを作りたかったから、顔には表情が必要でした。したがってシリコン製にして人間の顔のようにしました」などと、その誕生秘話を嬉々として解説。そして、「2千年前に仏像が誕生し、象徴となるものができた途端に、仏教は分かりやすくなり、一気に発展しました。そこからずいぶん歳月が経ちましたし、そろそろ変化する時です」と、AIが仏教の未来を開くことを願った。

 私は、後藤執事長から法話への飽くなき意欲を聞いていて、信仰の原点に立ち返らせていただいたような気がした。お寺の中にいると、伽藍の維持管理に追われるあまりに、信仰が置き去りにされるケースをよく見聞きする。新しい試みにチャレンジするリスクを取るよりも、従来通りのやり方で堅実に運営したいというわけである。そういう人たちは、「アンドロイド観音など『客寄せパンダ』ならぬ『客寄せ観音』だ。すぐに飽きられるに違いない」と冷ややかな視線を送り、日々の読経や掃除などに精を出す。

 しかし、仮に伽藍が維持されてもそこに伝えるべき教えがなければ、その伽藍は用を成さない。宗教者の本来の姿としては、新しいテクノロジーがもし布教の可能性を開くものであるなら、目をキラキラさせてそこに飛びつくべきだと思う。少なくとも私はそうである。

 マインダーは、プロジェクションマッピングで部屋の周囲に映し出された人々との対話を通じて、『般若心経』に説かれる「空」の教えを分かりやすく説いた。この対話がさらに進化して、映し出された人々ではなく、居合わせた人々からのリアルな質問に対し、釈迦以上のレスポンスで対応することは可能なのか。次なる課題をいただいた気がした。できればこの課題に応えたいと思う一方で、マインダーの開発費を上回る費用が必要となるなら、さすがに私1人の財布だけでは賄えない。心ある人たちのご懇志を期待して、今は筆を置くことにしたい。

池口龍法(浄土宗龍岸寺住職)
 いけぐち・りゅうほう 1980年、兵庫県生まれ。京都大学大学院中退後、知恩院に奉職。2009年に超宗派の若手僧侶を中心に「フリースタイルな僧侶たち」を発足させ代表に就任、フリーマガジンの発行などに取り組む(~15年3月)。著書に『お寺に行こう! 坊主が選んだ「寺」の処方箋』(講談社)/趣味:クラシック音楽

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