【宗教リテラシー向上委員会】 「預言カフェ」の挑戦(1) 川島堅二 2019年12月1日

10年以上前になるが、東京の早稲田大学近くに「預言カフェ」(現在はJR高田馬場駅近くに移転)という喫茶店があり、朝のテレビ番組でも紹介され、けっこうな人が集まっているが大丈夫かという相談を受けた。
ホームページを見ると営業日は火曜から金曜、開店時間(当時)は午後2時、客入りが見込める土日は休み、営業日の平日も夕方6時半で閉店。これではフルタイムで働いている社会人は来るなというようなもの。授業の空き時間にちょっと来ることができる学生をターゲットにしていることは明らかに思われた。首都圏の大学を中心にカルト宗教の正体を隠した勧誘行為が問題になっていた時期である。これは一度行ってみなければと思った。
店の構えは街中にあるごく普通のカフェ。ガラス張りの店内は明るく、怪しい雰囲気はまったくない。違うのは、メニューが幾種類かのコーヒーのみ、しかも高額。一番安いブレンドコーヒーが850円。コーヒー以外に唯一用意されているオレンジジュースは900円だ(いずれも2019年現在)。
テーブルの上に小さなカードが立ててあり、そこにはこう書かれていた。「あなたのための預言を聞いてみませんか。預言は神さまからのメッセージです。神さまは私たち一人ひとりにご計画をもっておられ、励まし、助けを与えたいのです。ご来店のお客様に預言を録音してプレゼント致します。ご注文の際、スタッフにお声がけください」
「預言カフェ」の名の通り、ここはコーヒーのほかに「預言」というメニューがある。プラス50円(当時)で預言を録音してお持ち帰りできるという。
何より驚いたのはその客の多さである。開店のおよそ2時間前、お昼頃、すでに待ちリストにはたくさんの記名がされており2、3時間待ちとのこと。ディズニーランドの人気アトラクション並みだ。さすがに少しひるんだがここで帰ったのでは何のために来たのか分からない。記名して待つこと2時間、ようやく店内へ通されブレンドコーヒーと「預言」をオーダーした。
10分くらいでコーヒーが運ばれ、30代半ばくらいの女性「預言者」がやってきて同じテーブルの向かいに着席。「預言は占いとは違います。天の神さまからあなたへのメッセージです」という前置きの後、やおら「預言」が始まった。その時間およそ3分、その冒頭部分は以下のような内容である。
「主は言われます。愛するわが子よ、私はあなたをよいものとして造りましたよ。そして、あなたは指し示す者です。客観的にものを見て指導する者としてあなたを造りました……」
ホームページによれば、このカフェを運営している団体はクリスチャン・インターナショナル・アジア(CIA)東京キリスト教会。牧師は吉田万代(かずよ)という女性。公開されているプロフィールでは国立音大を卒業後、ドイツへ留学、帰国後CIA系の神学校を卒業してこの教派の牧師となった。そこでは聖霊の賜物としての「預言」を重視し、「預言者」を養成するコースがあるという。そこを修了した「預言者」たちがこのカフェで働いているのだ。
その後、私は何度かこのカフェに足を運んで「預言」を録音して持ち帰り、さらに複数の知人にお願いして「預言」を収集、その内容を検討した。その結果、警戒すべきカルトではなく、むしろ現代におけるキリスト教伝道の可能性への果敢な挑戦と思うようになった。(つづく)
川島堅二(東北学院大学教授)
かわしま・けんじ 1958年東京生まれ。東京神学大学、東京大学大学院、ドイツ・キール大学で神学、宗教学を学ぶ。博士(文学)、日本基督教団正教師。10年間の牧会生活を経て、恵泉女学園大学教授・学長・法人理事、農村伝道神学校教師などを歴任。