【宗教リテラシー向上委員会】 「預言カフェ」の挑戦~1杯900円のコーヒー 川島堅二 2020年2月11日

 預言カフェ(2019年12月1日付参照)の立地や営業日・営業時間から推して「ターゲットは大学生」と当初は考えたのだが、それは見事に裏切られた。それはそうだろう。一番安いブレンドコーヒーが1杯900円だ。この原稿を書いている現在は「新年スペシャルメニュー」が提供されているが、数種類のコーヒーいずれも1,300~2500円の価格設定。さらに通常メニューにある「ジャコウネコの排出物から取れる幻のコーヒー」は、なんと3,600円! ワンコイン(500円)でランチを済ませる大学生にはハードルが高すぎる。

 このような価格設定自体が、日本のキリスト教界では異例の挑戦と言えるだろう。例えば教会のバザーと比較してみる。年に1、2回、教会員総出で献品を集め値付けして販売する。当日は食事などの提供もある。「良い品をより安く」がモットーで、かつて私が牧会した教会では開場前から地域の人々の行列ができた懐かしい思い出がある。

 バザーに限らず、対外的に開かれた教会の催事は、できるだけ多くの人に来てもらうことが目的であるから、それが講演会やコンサートであれば入場料は無料、物品販売も相場より安くというのが暗黙の了解事項である。しかし、今や「良い品を安く」手にする場所は巷にいくらでもあり、そのようなコンセプトで人が集まる時代ではなくなってしまった。

 とはいえ、高価格帯のコーヒーを提供するためには、相当な覚悟と準備がなければできないことである。「預言」というただでさえ世間的には胡散臭いと思われても仕方のない看板を掲げているのだ。価格に見合わないものが提供されていたら「新手の霊感商法」と非難されることは目に見えている。実際、オーナーの吉田万代牧師によれば、開店当初からこの価格設定だったわけではなく、ブレンドコーヒー1杯350円から始め、徐々に生豆の仕入れや煎れ方の勉強と工夫を重ねて、現在の価格設定に見合ったコーヒーを提供できるようになったという。そして、この高級志向の価格設定が、カフェの経営のみならず、本来のミッションである「預言」の性格に大きな影響を及ぼしていく。

 飲食店の成否が、リピーターが付くかどうかと、その客層の質に大きく左右されることは容易に想像できる。メニューはコーヒーとジュースのみなのだ。1杯350円の設定と、900円が最低、上は3000円越えという設定とでは、訪れる客層も当然異なってくる。

 では1杯のコーヒーに900円以上の出費をいとわない人というのはどのような人なのだろう。預言カフェにできる行列をディズニーランドの人気アトラクション並みと書いたが、この二つの行列に並ぶ人々には共通点がある。それは安くない嗜好(品)に出費できる経済的ゆとりと、長時間の行列が負担にならない心身の健康である。

 こうした人は、とりあえず現在の生活が立ち行かないほど窮乏しているわけではない。しかし現状に必ずしも満足ではなく、自分の人生における何か新しい展開、ステップアップを求めている、そんな人ではないだろうか。

 こうした人が「預言」に求めるのは、当然のことながら差し迫った生活の必要ではない。身体の健康への助言でもない。自分の現状を打開するために具体的にできること、すべきことには薄々気づいている。欲しいのはこれまでの自分の人生について「よくやってきた」という承認と次のスタートへの後押しなのだ。

 預言カフェの「預言」はよく当たるとネットなどでは評判であるが、そのワケもこのあたりに関係している。(つづく)

川島堅二(東北学院大学教授)
 かわしま・けんじ 1958年東京生まれ。東京神学大学、東京大学大学院、ドイツ・キール大学で神学、宗教学を学ぶ。博士(文学)、日本基督教団正教師。10年間の牧会生活を経て、恵泉女学園大学教授・学長・法人理事、農村伝道神学校教師などを歴任。

【宗教リテラシー向上委員会】 「預言カフェ」の挑戦 川島堅二 2019年12月1日

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