【夕暮れに、なお光あり】 大浦湾の海亀とジュゴン 島 しづ子 2020年9月1日
2020年4月から72歳で沖縄のうふざと伝道所に赴任した。この教会の特徴は「新基地建設反対行動は牧師の公務」としていることだ。沖縄に住んで沖縄に押し付けられた現実に改めて驚く。
狭い沖縄にあっという間にコロナ感染の第2波が押し寄せ、沖縄の医療従事者が不足し、県外に応援をお願いする事態だ。第2波は米軍基地の米兵の感染拡大から始まった。それを「GoToキャンペーン」が後押した。第1波の時は辺野古湾での新基地建設工事は中断していたが、第2波の今は隣のキャンプハンセンで最大の感染者数を記録しているのに工事は続行。「不要不急の外出禁止」の中で、人の命を攻撃する基地建設は続けられている。
市民による基地建設反対行動は「互いの命を守る」視点から、組織としては中止している。それでも10人前後の個人がキャンプシュワブ前、赤土を積み出す安和、塩川港での抗議行動を行っている。私は海の監視行動を行う船に週に2日乗せてもらっている。
早朝、辺野古漁港を出港すると、右手には朝日が昇り、海が輝き出す。コバルトブルー、水色、緑色と深さや光によって色が変わる。対して左側は延々とオレンジ色のオイルフェンスが続く。その内側ではテトラポットが並べられ、その上に嵩上げ工事が行われている。辺野古崎では時々海亀にも逢う。大浦湾の海底は不安定な基盤であって、とうてい基地建設は不可能だと言われているのに、土砂投入が行われ続けていることには「何のためだろう?」と思う。
抗議行動をしている人たちや船長と空いた時間に話す。基地建設反対行動をする人たちを「プロ市民」と揶揄する言葉があるという。プロどころか、ほとんどが素人だ。沖縄戦を経験した人、家族からその歴史を聞いて「二度と戦争協力しない、させない」と60代、70代、80代の人が座っている。沖縄のことを知り、移り住んで座り込みに参加し、船を操船し、カヌーを漕ぐ人たち。定年退職後移ってきてゲート前に座る人たち。現役のために土曜日だけカヌーに乗る人。それぞれができることで平和を創り出す働きに参加している。
これに参加できる老いの日々は神様からのプレゼントタイムだ。いつかジュゴンの食み跡がある大浦湾でその主(ぬし)に会いたいものだ。
「神よ、沈黙しないでください」(詩編83:2)
しま・しづこ 1948年長野県生まれ。農村伝道神学校卒業。2009年度愛知県弁護士会人権賞受賞。日本基督教団うふざと伝道所牧師。(社)さふらん会理事長。著書に『あたたかいまなざし――イエスに出会った女性達』『イエスのまなざし――福音は地の果てまで』『尊敬のまなざし』(いずれも燦葉出版社)。