〝「捕食者」と気づくのに時間を要した〟 パリ外国宣教会の司祭から受けた性暴力を実名で告発 2024年8月1日
カトリック札幌教区(勝谷太治教区長)が、「リッタースハウス・フィリップ神父に係る報告」と題する告示を公表して2カ月。2022年7月、パリ外国宣教会(以下、宣教会)の同神父から同意のない性交を強要されたという被害を訴えたフランス人男性の要望を受け、母国に情報公開を求めてきた同教区は5月30日、宣教会からの報告(4月8日付)を邦訳して公開した。
それによると宣教会は、男性から告発があった直後に両者から事情を聴取したものの、神父は告発内容を否定。2022年8月2日にフランスの司法当局、バチカンの教理と信仰省に報告し、フランス警察の捜査が現在も進行中で、フランスの教会刑事裁判所に委託された教会法に基づく調査も開始しているという。
さらに「札幌教区の勝谷司教様とご信者の皆様が傷つかれたことに困惑し、申し訳なく思い、司教様と日本のカトリック教会にお詫び申し上げます」と謝罪しつつ、「結果が出るまでは何も動くことができません。調査の秘密は尊重されなければなりません。裁判所の裁量に委ねられなければなりません」と記す一方、「たいへん多くの時間をT氏の話を聞くことに費やしました」「フランスに来て話をするための旅費、滞在費に必要と思われる額を負担しました」としている。
しかし、これらの説明は「事実に反する」として異を唱えているのが、被害を訴えてきた成人男性「T氏」こと、フランス国籍のティモテ・ベガン氏=写真=本人だ。弁護士を介して勝谷司教に宛てた手紙によると、宣教会は事件が日本国内で起きたにもかかわらず、札幌教区と信者に説明もなくフィリップ神父を離日させたばかりか、日本在住で妻子もいたベガン氏にも帰国を求めた。さらに聴取に際してベガン氏への支援はなく、「トラウマ状態の中、医療的・法的・社会的に必要な手立てを一人で取らねばならなかった」「旅費の負担も約束した往復分ではなく一部のみだった」と強く抗議。ベガン氏は現在も、「TIM L’ ASPI」名義でYouTube動画などを通し、自らの性被害と宣教会の隠蔽体質、札幌教区の監督責任などについて追及し続けている。
本紙の取材に対しベガン氏は、自身がアスペルガー症候群の特性をもっていることを打ち明けた上で、時系列を追って詳細にわたる被害の実態を証言した。敬虔なカトリック信徒の家庭で育ち、宣教会や司祭に対する崇敬の念を徹底して刷り込まれたため、フィリップ神父から繰り返し性的ハラスメントを受けながらも、最終的に性暴力を受け、彼が「捕食者」だと気づくまでに時間を要したと振り返る。ベガン氏はまだフランスにいた17歳当時、妻帯者であった18歳年上の従兄弟からも性暴力被害にあった経験を告解で打ち明けていたという。
札幌教区は2017年、「ハラスメント対応委員会」と被害の相談を受け付ける「聖職者によるハラスメントホットライン」を設けた上、2020年3月には「ハラスメント防止宣言」を発表。同宣言は「これまで教会で起こった性虐待、性暴力によって深く傷つけられた人々に謝罪するとともに、今後はカトリック教会に関わるすべての構成員によるハラスメントの根絶に取り組んでいきます」「神が一人ひとりに与えて下さった尊厳、特にもっとも弱い立場に置かれている人たちを守るために全力をつくします」と誓っていた。
カトリック教会では、米東部「ボストン・グローブ」紙の調査報道で神父による性虐待が明るみになった2002年以降、世界各国で被害の告発が相次いだ。フランスでは2021年10月、1950年から70年間にわたり、推計21万人以上の未成年者がカトリックの聖職者など3000人以上から性被害を受けたとする報告書が公表された。
ジャーナリズムの本質探る 神父の性的虐待を追う米紙調査報道 映画『スポットライト 世紀のスクープ』 2016年3月26日
1658年に設立され、東アジアの宣教にも寄与してきたパリ外国宣教会は現在、インド、中国、東南アジア、日本など14カ国に150人の司祭がいる。宣教会による性虐待をめぐっては、フランスの国際ニュース専門チャンネル「フランス24」が2023年9月、タイの貧しい地域で宣教師から被害にあったという複数の証言を起点とするドキュメンタリー番組を放送。現在、宣教会から待機処分を受けているというフィリップ神父もインタビューに答え、「合意がなかったと告発されているが、遅かれ早かれ真実は明らかになる」と反論している。ベガン氏の証言によれば、フィリップ神父自身も神学校在学中に宣教会の元総長であるジル・レタンジェ神父から、「秘密の性生活と嘘を教えられた」と告白しており、宣教会内でも長期間にわたり「性的不品行」が横行していたことが疑われ、フランス国内にも衝撃が走っている。