【宗教リテラシー向上委員会 瓦版】 「トランプ支持の福音派」という誤解 波勢邦生 2026年4月26日

俗流理解「福音派」について

 昨今、悪い意味で「福音派」が大人気だ。先日、研究者から「福音派って、この理解で合ってる?」と聞かれたので、15分ほど通話で解説した。問い合わせが増えている。察するに「トランプ政権の支持層である福音派」という俗流理解がまかり通っているらしい。日本人は、米国社会におけるキリスト教の歴史的位置、社会的価値に疎い。だからトランプ政権と市民宗教の関係性を精確に論じられる識者も少ないのだろう。

トランプ政権を支持する福音派?

 さて福音派とは何か。まず、ぼくが福音派出身であり、米国で福音派の源流となった学統の一つで学んだ事実は明らかにしておく。発言者の資格、公平さを担保するためだ。

 では本題。「トランプ政権の支持層である福音派」という物言いは、事実誤認を含んでおり、修正を要する。この物言いは、ほとんど空想であって事実を反映していない。
では事実に基づいて理解するためには、何が必要か。

 まず福音派を論じるには、最低でも北米における聖書信仰/福音主義/福音派/ペンテコステ派などの専門用語を適切に区別して用いなくては、意味が分からなくなる。なぜなら福音主義/福音派は、言語と地域と時代を特定しない限り、融通無碍な言葉だからだ。たとえば「京都」について話しても、伊根の舟屋と三条の繁華街では事情も風景も全く違う。それゆえ俗流理解「トランプ政権を支える福音派」は間違っている。

 では彼らは何者か。トランプ政権を支える米国のキリスト教とは誰か。

 大雑把にいえば、彼らは米国のキリスト教シオニストである。現行の近代国家イスラエルの存亡が聖書預言の成就だと解釈するキリスト教徒らだ。彼らは日本人には馴染みのない世界観を持っている。

 彼らにとって、世界情勢と歴史の趨勢は、このように見えている。旧き神の民たるイスラエルと新しき神の民たるアメリカの諸教会が協力して無神論国家や他宗教と戦い制圧すれば、人類社会が改善し、より悪の存在もまた明確となり、歴史が終局に向かって進む——この世界観を補助線として引くと、状況が分かりやすくなる。ちなみに、この世界観は、米ソ冷戦時代に特徴的な聖書解釈と神学思想を背景としている。

キリスト教シオニズム/福音派/ペンテコステ派

 ではアメリカの福音派は、キリスト教シオニズムなのか。政治的信条だからYes/Noは半々となる。当然、米国の福音派には、キリスト教シオニズムに肯定的な人もいれば反対する人もいる。また数は少ないだろうが、カトリックや正教会、聖公会などにもシオニストがいてもおかしくはない。政治的/宗教的な信条を混ぜて語ることは難しい。現実はいつも複雑なのだ。

 次に、俗流理解「トランプ政権を支える福音派」の福音派は、ペンテコステ派と区別されていない。米国でも日本でも、福音派とペンテコステ派(日本語では聖霊派)は自他ともに認める別の集団である。またペンテコステ派の諸教会の内部でも意見に相違があって、古典的なペンテコステ派、カリスマ派、第三の波と、最低でも三つに分けられる。日本では、こうした事実があまり知られていない。

空想の「原理主義」イメージ、それに基づく報道

 日本における「トランプ政権を支える福音派」のイメージは、原理主義と結びついている。おそらく映画『ジーザス・キャンプ ~アメリカを動かすキリスト教原理主義』あたりで醸成されたのだろう。報道関係者においてさえ「原理主義」と福音派が、ほぼ同一視されているのかもしれない。たとえば『ジーザス・キャンプ』を福音派だと解説する意見もあったが、同作品で扱われた教会は、ペンテコステ派の中の「カリスマ派」や「第三の波」の影響下にある教会だ。福音派ではない。

 福音派/ペンテコステ派とわず、トランプ政権を指示する人もいれば反対者もいる。またシオニストであってもトランプ政権に否定的な人もいるだろう。人口動態からいっても、ペンテコステ派は、せいぜい米国の人口比3%程度、約1千万人にすぎない。その中で、①シオニストで、②カリスマ派や第三の波に属する人が、俗流理解「トランプ政権を支持する福音派」に、もっとも近い。となると実数不明ながら、多くみても300ー500万人程度ではないか。果たして彼らに米国政権を動かす力があるのか。枯れ尾花をみて幽霊だと騒いではいないか。福音派、ペンテコステ派、トランプ政権、それぞれに区別して語るべきだろう。

 俗流理解「トランプ政権の支持層である福音派」、それは端的な事実誤認を含む。また修正が必要な見解だろう。もっとも要するに宗教マイノリティの分派の話だから、日本の報道各社に見識がなくて当然かもしれない。同時に、誰もメディアが正確な情報を流すとも思っていない。メディアの無知、人々の無関心、信者の怠惰の狭間で肥大する俗流理解こそ、時代精神なのかもしれない。

 キリスト教シオニズムとトランプ政権、その行方や如何に?

 

波勢邦生(「キリスト新聞」関西分室研究員)
 はせ・くにお 1979年、岡山県生まれ。京都大学にて博士(文学)。2015年以降、賀川豊彦を研究。連載「ある日本人キリスト者の横顔」(集英社)など。日本のキリスト教、AIから霊能まで思考錯誤。

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