【映画評】 キング・オブ・ポップの帰還 『Michael/マイケル』 2026年6月1日

 インディアナ州ゲイリーの工場労働者ジョセフ・ジャクソンは貧困から抜け出すため、5人の子どもたちにバンドを結成させる。虐待と呼ぶべき訓練のすえ、彼らは「ジャクソン5」としてデビュー。一躍スターダムを駆け上がるが、リード・ボーカルの幼いマイケルの葛藤は深まるばかり。その後も強権的な父に縛られてバンド活動を続けるマイケルだが、ついにソロ活動を決意。ずっと恐れて避けてきた父ジョセフと、とうとう対峙することになる。

 「キング・オブ・ポップ」と呼ばれたマイケル・ジャクソンの約25年間を描く伝記映画。1963年の「ジャクソン5」デビューからソロ活動への完全移行まで、主に『今夜はビートイット』や『スリラー』の制作現場、CM撮影中の事故、復帰後1988年の『バッド・ワールド・ツアー』にフォーカスを当てて語る。家族との複雑な関係、数々の慈善活動、動物たちとのかかわりなど、生前積極的に語られてこなかった姿も垣間見える。スクリーンで本人と見紛うほどのパフォーマンスを発揮するのは、マイケルの実の甥のジャファー・ジャクソン。約2年間をトレーニングに捧げたという。

 幼くして有名になり、皆から愛されるようになったマイケルが、その一方で「人として扱われない」と嘆く姿が痛ましい。同年代の子どもに会っても友達になれず、どこに行っても追い回され、いつも「マイケル・ジャクソン」でいなければならない。彼を子どもとして、あるいはただのマイケルとして扱ってくれる人間は、ごくわずかだ。

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 現代なら児童労働として問題視される状況の中、しかしマイケルはステージ上で創造性を発揮することに生き甲斐を覚え、居場所を見出していく。そうして過酷な家庭に身を置く自分と、華々しいステージに身を置く自分が分離する。それを暗示するのが、劇中たびたび登場する『ピーターパン』の絵本の、自分の影が剥がれてしまったピーターの挿絵だ。その分離は、成長したマイケルにも少なからず影響を与えたように思える。というのは誰に対しても言いたいことが言える立場になってさえ、芸能活動のきっかけを与えてくれた父ジョセフへの愛情と、どこまでも自分を支配して利用しようとする彼への憎悪の、どちらにも正面から向き合えないからだ。「キング・オブ・ポップ」と呼ばれる華々しいスターの陰に、そんな痛みと葛藤があった。

 本作は88年のツアーで幕を閉じる。晩年の過熱報道に晒される姿は描かれない。それを不当とする批判があるかもしれない。しかし当時の、憶測と悪意に傾いた報道がそもそも不当だったのではないか。この作品は、ギャングの抗争を止めるために彼らと一緒に踊り、虐待される動物たちに心を痛め、癌病棟の子どもたちを定期的に訪ね、惜しまず寄付してきたマイケルの愛情深さと、圧巻のステージで聴衆を魅了する彼のカリスマ性を視聴者に思い出させることで、その不当さに改めて異議を申し立てているように思える。

(ライター 河島文成)

6月12日(金)より全国公開
公式サイト:https://www.michael-movie.jp/
配給:キノフィルムズ

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