【この世界の片隅から】 2度目の女性国務総理誕生と今後の課題 洪 伊杓 2026年7月1日

韓国でガラスの天井(Glass Ceiling)が再び破られた。李在明大統領は女性である韓聖淑(1967年~)中小ベンチャー企業部長官を新任国務総理として指名した。かつて金大中大統領が梨花女子大学元学長の張裳(1939年~)氏を指名したことがあるが、女性総理誕生に抵抗した保守野党の攻勢によって任命が頓挫した例がある。今回の韓聖淑氏は現職の長官であるため順調に就任する見込みであり、韓国で二人目の女性国務総理となる。
一人目の女性国務総理は、2006年に盧武鉉大統領が指名した韓明淑(1944年~)氏だった。 韓氏は金大中大統領時代に初代女性部長官、環境部長官として公務を開始し、次の政権では総理にまで昇進した。それからちょうど20年後に女性総理が誕生し、名前も一人は韓明淑、もう一人が韓聖淑と姉妹のように似ている。
二人とも女子大学出身である点も注目される。これは韓国の女性高等教育の歴史的な成果である。最初に指名された張裳氏と韓明淑前総理は韓国初のキリスト教女性教育機関である梨花女子大学の出身で、韓聖淑新任総理は淑明女子大学出身である。この淑明女子大学は高宗の皇后であり、英親王の生母である純献皇貴妃厳氏が設立したと公表されているが、実際にはその設立を主導し、教育内容と運営を直接担当していた人物は、日本基督教婦人矯風会京城支部長であったキリスト者の淵澤能恵であった。海老名弾正や渡瀬常吉らが主導した「朝鮮伝道論」の一環として誕生した学校とも言える。いずれにせよ、韓国の主体的な女性リーダーシップの歴史にはキリスト教女性教育の成果があった。
そして、これらの女性総理はキリスト者(プロテスタント)である。最初に指名された張裳氏は梨花女子大学で新約聖書学を教えた神学者であり、その後初めて就任した韓明淑氏も韓国クリスチャンアカデミーで活動したキリスト者(韓国基督教長老会に所属)である。民主化運動家の夫、朴聖焌氏も日本の立教大学で神学博士号を取得した後、韓神大学や聖公会大学などで教鞭を執った。韓聖淑新任総理もこの流れの中にいる。

ネイバー代表時代の韓聖淑新任国務総理(写真=NAVER)
韓明淑氏が仏文学、韓聖淑氏が英文学と女性総理が文学部出身である点も目を引く。人文学を専攻した二人が公的リーダーシップを発揮している。韓聖淑氏は人文系出身でありながら、2017年に韓国を代表するIT企業であるネイバー(Naver)の代表取締役社長に就任し、第12代韓国インターネット企業協会会長も務めた女性リーダーである。AIの大転換の時代に人文学的な想像力と労働に対する細やかな配慮、そして共存の価値を忘れない政策を実行してほしい。
最後に韓明淑氏と韓聖淑氏、二人はどちらも「清州韓氏」だ。国の財政と内政に集中する国務総理の役割を考えると、「清州韓氏」の家から次々と女性国務総理が輩出されるのは偶然とは思えないほど奇妙である。朝鮮500年の歴史の中で、王妃を最も多く輩出した家系は、いわば「清州韓氏」だったからだ。朝鮮を建国した太祖李成桂の初代王后である神懿王后をはじめ、世宗大王の長男である徳宗の王后で成宗の母である昭恵王后、睿宗の最初の王后である章順王后、睿宗の2番目の王后である安順王后、成宗の王后である恭恵王后、仁祖の王后である仁烈王后まで、6人すべて清州韓氏出身である。最近、映画『王と生きる男』(2026年)で注目を浴びた老練な権力者・韓明澮は、娘を二人宮殿に迎え入れ、裏で権勢を振るった。朝鮮時代には清州韓氏の娘たちが父権的な外戚の政治的道具として使われていたが、現代では主体的な思想と活動だけで、かつて男性が独占していた「領議政(現在の国務総理)」まで担うことになった。500年前には想像もできなかった驚天動地・後天開闢であることは間違いない。
過去の王妃のような受動的な役割や立場ではなく、市民の僕として時代精神の要求に主体的に応え、新しい歴史を切り開いていくことを切に願う。歴史上初めて女性総理の時代を迎えている日本にはどうだろうか。韓国の女性総理たちがそうであったように、日本のキリスト教女性教育機関とキリスト者の新たな決意と努力も必須であろう。

ほん・いぴょ 1976年韓国江原道生まれ。延世大学大学院修了(神学博士)、京都大学大学院修了(文学博士)。基督教大韓監理会(KMC)牧師。2009年宣教師として渡日し、日本基督教団丹後宮津教会主任牧師などを経て、山梨英和大学の宗教主任を務めた。専門は日韓キリスト教史。














