分裂の危機の中で「交わり」探る 全聖公会中央協議会が閉幕 日本聖公会も提案に応答 2026年7月8日

世界の聖公会が直面する分裂の危機をどう受け止め、なお「交わり」を保つのか。第19回全聖公会中央協議会(ACC-19)が6月28日から7月5日まで、北アイルランド・ベルファストで開かれた。主題は「ひとつの希望に召されて」。日本聖公会からは西原廉太氏(中部教区主教)、吉谷かおる氏、管区渉外主事のポール・トールハースト司祭が出席した。
全聖公会中央協議会は、世界聖公会(アングリカン・コミュニオン)の「交わりの器」と呼ばれる四つの機関の一つ。カンタベリー大主教、ランベス会議、首座主教会議と並ぶが、唯一、信徒も主教・聖職者と同等の発言権と投票権を持つ点に特徴がある。世界42管区から代表が派遣され、宣教、教会の一致、社会課題などについて協議する。
今回最大の焦点は、「ナイロビ・カイロ提案」だった。これは、世界聖公会の一体性を保つため、信仰・職制・一致に関する常置委員会がまとめた提案で、セクシュアリティや女性の聖職をめぐる深い対立を背景にしている。提案は、従来の「カンタベリー大主教座との交わり」という表現を見直し、「カンタベリー大主教座との歴史的つながり」とすることや、カンタベリー大主教の役割を縮小し、世界各地域の首座主教による協働的な指導体制を強めることを含んでいた。
背景には、保守派ネットワークGAFCONの動きがある。GAFCONは今年3月、女性のカンタベリー大主教誕生も受け、従来のアングリカン・コミュニオンとは別に「グローバル・アングリカン・コミュニオン」の結成を掲げ、自らこそ正当な世界聖公会であると主張した。参加管区にはランベス会議やACCなど従来の会議体に代表を送らないよう求めていた。
ただし、今回のACC-19では、全42管区のうち、明確な意思を持って代表を送らなかったのはナイジェリア、ウガンダ、ルワンダの3管区にとどまった。スーダンはビザ取得の問題で、コンゴはエボラ熱などの影響で出席できなかった。保守派の中でも、Global South Fellowship of Anglican Churches(GSFA)は代表を送り、議論に参加した。西原氏は、GSFAの議長代行でもあるアレクサンドリア聖公会のサミー・シェハタ大主教と同じグループで協議を重ね、「意見の相違があっても分裂してはならない」とする姿勢に強い印象を受けたという。
日本聖公会主教会は、会議に先立ち「ナイロビ・カイロ提案」への応答を決定し、西原氏がACC-19に正式提出した。応答では、「コミュニオン」は単なる連合体ではなく、聖餐の交わりと職制の相互承認を含むものだと強調。「カンタベリー大主教座との交わり」という表現を削除すれば、世界聖公会は聖餐共同体ではなく、単なる協議体に近づくと懸念を示した。また、カンタベリーとの「歴史的つながり」を条件にすれば、スコットランド聖公会や米国聖公会、日本聖公会のように複数の宣教ルーツを持つ教会の位置づけにも問題が生じると指摘した。
7月4日の採決では、保守派代表から、カンタベリー大主教座との完全な交わりを聖公会のアイデンティティの中心とする文言を削る修正案が出された。しかし、この修正案は賛成24、反対52、棄権4で否決された。最終的に可決された決議は、ナイロビ・カイロ提案を「継続的な識別のための資料」として受け取り、結論を急がず、次回2029年のACC-20に向けて各管区の応答をさらに集約するという内容となった。来年初頭の首座主教会議でも継続協議される見通しである。
一部海外メディアはACC-19が「カンタベリー大主教の中心的役割を再確認した」と伝えたが、西原氏は、実態は決着ではなく先送りだと見る。保守派の主要修正案が大差で否決されたことで、今後さらに反発が生じる可能性もある。一方、GSFAは会議後の声明で、分裂の現実が決議に明記されたことを評価し、継続的関与に前向きな姿勢を示した。ただし、ACC常置委員会にアフリカからの委員が一人も選出されなかったことには強い懸念を表明した。
会議では、宣教、セーフガーディング、気候変動、若者の平和構築、障がい者ネットワークなどに関する決議も採択された。とりわけ、今後10年で100万の新しい教会設立をめざす「Vision36」など、宣教と社会的証言に関する議題も幅広く扱われた。
参加者は会期中、ロンドンデリーを訪問し、1972年の「血の日曜日事件」で失明したリチャード・ムーア氏の証言を聞いた。10歳で英国兵のゴム弾を受けて視力を失ったムーア氏は、後にその兵士と面会し、和解への道を歩んだ。自分自身の心の中から和解は始まるという証言は、分裂を抱える世界聖公会の参加者に深い示唆を与えた。
また、聖書研究を担当した神学者パウロ・ウエティ氏は、日本の「金継ぎ」を紹介した。割れた器を金で継ぎ、傷を隠すのではなく新たな美に変える技法は、破れを抱えながらもなお一つの器であろうとするアングリカン・コミュニオンの姿と重ねられた。
次回ACC-20は2029年、北インド合同教会をホスト管区として開催される。今回の会議は、世界聖公会が分裂を克服したことを意味せず、むしろ破れを認めた上で、なお互いに席を立たず、祈り、聖書を読み、対話を続けるという困難な道を選んだ会議だった。日本聖公会の応答も、その世界的な識別の中に、聖餐共同体としての「交わり」を守る立場から一石を投じた。















