【熊本地震レポート⑤】宗派超えた支援、平時のつながりが力に 光照寺・糸山公照住職 WVJのコンテナを地域拠点へ 2026年10月2日

 7月28日に発生した熊本地震で大きな被害を受けた熊本県宇城市豊野町。真宗大谷派・光照寺では発災直後から寺を地域に開き、支援物資の配布や炊き出し、子どもの居場所づくりなどを続けている。その境内には今、キリスト教精神に基づく国際NGO、ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)の支援によって設置されたコンテナハウスがある。

 光照寺住職の糸山公照さんとWVJが出会ったのは今回の地震が初めてだった。WVJは発災後、主に子どもの支援を担い、各地で必要とされる物資や「居場所」のニーズを探っていた。その過程で、平時から子ども食堂などを行い、地域の人が集まる場所となっていた光照寺を紹介された。WVJ側の取材によると、当初は屋外にテントを設置する案も検討したが、光照寺では本堂などが物資置き場として使われ、冷房の効いた子どもの居場所が失われていた。現地の条件を検討した結果、テントではなくコンテナハウスを設置することになった。

 糸山さんも「ワールドビジョンさんは子供のために」と説明する。地震発生は夏休み中で、小中学校の体育館や防災センターが被災。以前子どもたちが遊んでいた公園も使えなくなり、猛暑の中で過ごせる場所がほとんどなかった。「エアコンも入れてもらって、何かできるところがないか」という中でコンテナが設置され、取材時にはそこでヨガが行われていた。寺でも8月末まで境内にプールを設け、子どもたちに開放した。

 WVJが支援する主な対象は子どもだが、子どもを支えるには家族や地域のコミュニティーを支える必要もあるとして、施設は地域住民にも活用されている。

WVJから提供されたコンテナを紹介する糸山さん(左)

コンテナ内ではさまざまな支援活動が展開されている

 糸山さんはさらにその先を見据える。地震によって地域の医院が閉院し、身近な医療機関が失われたことから、コンテナをカフェのような場にして医療関係者に相談できるようにするほか、法律相談やマッサージなどにも活用できないかと考えている。「箱さえあればどうにかできる」。地域に店や人が少なくなった今、外から来る人と住民をつなぐ新たなコミュニティーの拠点にしたいという。

 もっとも、光照寺が地域の「駆け込み寺」となるのは、災害時だけではない。

 糸山さんは1976年宇城市生まれ。大谷大学大学院を修了し、県立甲佐高校や松橋支援学校などで教員として勤務した後、2012年から光照寺副住職を務めた。学校心理士であり、東日本大震災後には東北大学実践宗教学寄附講座で研修を修了して臨床宗教師としても活動してきた。臨床宗教師は、布教を目的とせず、宗教・宗派を超えて医療現場や被災地などで人々の苦悩に寄り添う宗教者を指す。

 今回のコンテナを医療や法律相談もできる地域拠点にしたいという発想も、地震後に突然生まれたものではない。分野や組織の壁を越え、「自分だけではできないことは、できる人につなぐ」。糸山さんは平時からその実践を続けてきた。

 光照寺が災害時の支援拠点となったのも今回が初めてではない。2016年の熊本地震では本堂の屋根や壁が崩れる大きな被害を受けながら、応急処置を施し、支援物資の供給地点として地域に開いた。本堂の修復を終えたのは2023年で、翌年に落慶法要を営んだばかり。今回も堂内の物が崩れたが、「どうせ本堂も使えないので、また支援物資をここでやっていこう」と、発災直後から活動を始めた。

 その原点にあるのが東日本大震災だ。当時、学校教員で光照寺副住職だった糸山さんは、真宗大谷派の仙台別院を拠点とする復興支援活動に参加。仙台から石巻、陸前高田などへ足を運んだ。そこで目にしたのが、寺院など民間の施設に支援物資を集め、行政の仕組みだけでは届きにくい人にも柔軟に届ける活動だった。

 「行政では決められた数しか渡すことができない。自由に取りに行ったり、渡せしたりできる場は、やはり民間でなければ作れないなと」

本堂内には全国から寄せられた支援物資が所狭しと並ぶ

 東北では曹洞宗の僧侶やキリスト教関係者とも一緒に活動した。その後も糸山さんは各地の災害現場に足を運び、宗派や団体を超えて支援者とのつながりを広げてきた。東北大学実践宗教学寄附講座で学び、宗教・宗派を超えて被災者らの心のケアに携わる臨床宗教師としての経験も、そのネットワークを広げる契機になった。

 発災後、福岡や佐賀などから物資が届き、過去の災害現場で知り合った曹洞宗の僧侶や支援団体の関係者らが駆け付けた。糸山さん自身、この10年間に各地で起きた災害の支援に携わってきたためだ。「そういう人たちと出会っているんですよね。だから、ご縁があったそこに支援に行きたいと思うじゃないですか」

 今回のWVJとの協働は、既存ネットワークから直接生まれたものではない。地震を機に初めて出会った両者が、「子どもの居場所」という地域の具体的な必要を共有したことから始まった。長年培ったつながりが動く一方、災害を契機に新しい関係も生まれている。光照寺の支援現場では、その二つが重なり合っている。

 宗教施設が支援活動を行えば、時に布教との境界も問われる。糸山さんの答えは明快だった。「そもそも布教伝道を目的としていません。地域住民として神社のお祭りにも行くし、キリスト教のミサにも行く。地域の困ってる人たちにただ寄り添うだけです」

 同時に強調するのが、災害が起きる前から地域とつながっておくことの重要性。「平常時にどれだけ団体や地域とつながってるかに尽きる」。寺に敷居の高さを感じる人もいるからこそ、地域活動を担う「うきのわ」などを通じて、普段から人が来やすい環境をつくってきた。それが「いざという時に頼ってもらえる」関係につながった。

 2012年に始めた「うきのわ」も、もとは東日本大震災と原発事故を受けて東北から熊本へ避難してきた人と地域住民をつなぐための活動だった。空き家を活用した移住支援などを続け、現在は災害支援も担う。そこに「あなたの駆け込み寺」のような、宗教者と各分野の専門家をつなぐ活動も重なってきた。

 「宗派宗教を超えて仲良くやっています。みんなで手を取り合って、まず宗教者が仲良くやっていかないと」

*「熊本地震レポート」として現地を取材した模様を連続してお届けします。

 なお光照寺では10月4日、地震で被災した小屋の解体作業を行う。解体業者と重機は確保できたものの、解体後の木材や金属などの分別、トラックへの積み込み、仮置き場への運搬を担う人手が不足しており、糸山さんは5~6人程度のボランティアを募っている。4tトラックを運転できる人の協力も募集中。

 作業は10月4日午前8時30分から。集合場所は光照寺駐車場(熊本県宇城市豊野町糸石2249)。1日を通しての参加ではなく午前中のみ、2~3時間のみの参加も受け付ける。参加希望者は光照寺の糸山さんまで。

 糸山さんは「少しずつ片付けてきましたが、まだまだ人の力を借りないと前に進めないところがあります。少しの時間でも構いません。力を貸していただける方、よろしくお願いします」と協力を呼びかけている。

【熊本地震レポート④】 「大丈夫じゃない」と言えるように 3度の避難所運営で学んだこと 熊本YMCA・丸目陽子さん 2026年9月25日

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