【宗教リテラシー向上委員会】 教会と「宗教2世」問題(2) 川島堅二 2025年11月21日

 「宗教2世」問題とは具体的にどのようなものか。作家でありYouTubeインフルエンサーでもあるまりてんさんの事例から考えてみたい。

 まりてんさんは近著『聖と性-私のほんとうの話』(講談社)で、自分が「宗教2世」であることを明かしている。まりてんさんは1990年生まれ、現在35歳だが、小学生の時に妹が亡くなった影響で母親がエホバの証人に入信、生活が一変する。週2回は母親に連れられて集会参加、90年代には子どもへのむち打ちといった体罰はなくなっていたが、日常や学校生活での様々な禁止事項がありそれが辛かったと振り返っている。

 誕生祝い、ハロウィン、クリスマス、新年のお祝い、七夕、節分、ひな祭りなどはすべて「反聖書的」「異教の習慣」として禁止。「あけましておめでとう」も言えない、年賀状も出せない。当時流行っていたポケモンなどのキャラクターも禁止。紅白対抗戦や騎馬戦が「戦闘行為」にあたるとして運動会も不参加。小学校6年生の時の修学旅行で行った奈良・京都では神社・仏閣へ足を踏み入れることができないためほとんどの観光ができず一人でバス待機。このように多くの学校行事で他の生徒と同じ行動が取れない辛さに加え、小学校の時に手術を要する疾病に罹った時も、親が輸血を了承する書類に署名を拒否したために手術を受けられなかったという経験もする。

 このような理不尽な目にあいながらも母親に対し正面から「宗教から離れたい」「集会に行きたくない」と言えなかった理由として「母が私を信者にしたい理由が愛情からだと気づいていたから」と述べている。

 最初の反抗は中学での柔道の授業。母からは「柔道の授業には出させないでください」という手紙を持たされるがそれを捨て、お小遣いを貯めて密かに柔道着を購入し授業に参加。「一歩踏み出せた嬉しさと興奮でドキドキが止まらなかった」と振り返る。

 こうした経験から母親の信仰に対する違和感が固まっていき、エホバの証人の世界観は綺麗ごとでしかなく、人間はもっと欲望に忠実で愚かな存在ではないのか、外の世界に住む人たち、エホバの証人が「サタン」と呼ぶ人たちこそがむしろ本来の人間なのではないか。「わたしはサタンになりたい、教義への反逆者として世の中を見たい」と願うようになる。この思いは大学生になり一人暮らしを始めると「夜の街での逆ナンパ」活動になり、ついには自宅やホテルに派遣されて性的サービスを行う風俗業(デリヘル)にまで足を踏み入れる。

 大学卒業後広告制作会社に就職するが、3年半で退社。「これまでの人生で一番楽しかったのは学生時代のデリヘル勤務だった」ことを思い出し、「副職女子」をコンセプトに風俗店を立ち上げるも3年後には経営のストレスから自殺未遂、家族によって保護され精神科に措置入院させられる。休養後に大手事業会社にウェブプランナーとして復職、現在は著述活動のほか夜職従事者のコンサルなど活動の幅を広げつつある。

 まりてんさんによれば夜職従事者には「宗教2世」が少なくないとのことである。安倍元首相銃撃事件は氷山の一角にすぎず、水面下で多様な、しかも将来のある若者を生死の極みまで追い込む深刻な「宗教2世」問題が存在していることが分かる。

 「旧統一教会」や「エホバの証人」ついて「異端だから私たちとは無関係」と伝統的な教会は言い続けてきた。しかしこれら「異端」の方が信者数において多数派である日本においては、最初に出会う「キリスト教」が「異端」である場合が確率的にも高い。教会はこの問題と誠実に向き合うことが求められている。(つづく)

川島堅二(東北学院大学教授)
 かわしま・けんじ 1958年東京生まれ。東京神学大学、東京大学大学院、ドイツ・キール大学で神学、宗教学を学ぶ。博士(文学)、日本基督教団正教師。10年間の牧会生活を経て、恵泉女学園大学教授・学長・法人理事、農村伝道神学校教師などを歴任。

【宗教リテラシー向上委員会】 教会と「宗教2世」問題(1) 川島堅二 2025年9月21日

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