ロシア正教の「聖夫婦」を少子化対策に動員 教会が「伝統的価値」政策で国と連携 2026年7月11日

ロシアで、正教会の聖人崇敬が国家の少子化対策と結び付けられている。米「レリジョン・ニュース・サービス」(RNS)が7月7日に掲載した「The Conversation」配信の論考によると、ロシア正教会は5月30日、モスクワ西部の戦勝記念公園ポクロンナヤ・ゴラで、家族のための祈祷行列を実施した。教会系メディアはこれを「家族の聖性の日」と位置付けた。
この日と結び付けられたのは、14世紀のモスクワ大公妃で、夫の死後に修道誓願を立てた聖エフドキヤと、その夫でモンゴル勢力に対する勝利で知られる聖ドミトリー・ドンスコイである。両者は長く別々に記念されてきたが、ロシア正教会は2015年、2人を「12人の子の親」として一組の聖夫婦として記念するよう定めた。
ロシアでは7月8日にも、結婚と夫婦の忠実を象徴する聖ペトルと聖フェヴロニヤの日が祝われる。13世紀のムーロム公夫妻とされる2人は、正教会で結婚と家族の守護聖人として敬われてきた。この日は2008年から「家族・愛・貞節の日」として広がり、2022年には国家の公式祝日となった。
背景にあるのは、ロシア政府が進める「伝統的価値」政策である。プーチン政権は、家族、愛国心、宗教的・道徳的価値を掲げ、欧米的なリベラル思想やLGBTQの権利擁護に対抗する姿勢を強めてきた。2024年には「家族の年」が宣言され、出生率の回復は国家存続に関わる課題として扱われている。
ロシアの人口動態は深刻だ。AP通信によると、ロシアの人口は1990年の1億4760万人から2025年には1億4610万人に減少し、55歳以上の割合も1990年の21.1%から2024年には30%に上昇した。出生数は2015年をピークに減少を続け、2024年の出生数は約122万人にとどまった。ロイター通信も、2024年前半の出生数が59万9600人と1999年以来の低水準になったと報じている。
政府は多子家庭への支援や表彰制度を打ち出す一方で、「チャイルドフリー・プロパガンダ」の禁止、中絶をめぐる規制強化、LGBTQ関連表現への締め付けなどを進めている。AP通信は、こうした制限策が出生率上昇に直結しているわけではなく、むしろ女性の健康や自己決定を脅かすとの批判もあると報じている。
RNS掲載の論考は、ロシア正教会と国家の協力関係に注目する。聖ペトルと聖フェヴロニヤは夫婦の愛と忠実を象徴する一方、伝承上は子を持たず、晩年には修道生活に入る。そのため、出産奨励の象徴としては不都合な面もある。そこで教会は、12人の子を持つ聖ドミトリーと聖エフドキヤを新たな「家族」のモデルとして前面に出しているという。















