【この世界の片隅から】 台湾で神になった日本人、シャーマンを通じてコメントする 藤野陽平 2026年9月1日

前回の連載(3月11日付)で紹介したが、ドキュメンタリー映画「軍服を着た神様」が8月1日にポレポレ東中野で封切りされ、今後各地で順次上映される。映画に登場する田中将軍という神様の誕生日の祭典が5月24~25日に開催されるというので、屏東県枋寮の東龍宮を再訪した。
【この世界の片隅から】 台湾で神になった日本人 ――ドキュメンタリー映画『軍服を着た神様』今夏劇場公開 藤野陽平 2026年3月11日
今回、参加したのは神様たちや信徒の皆さんに完成を報告し、謝意を伝えるためだったが、そのほかにも映画を皆さんにお見せするという目的もあった。祭りの後の宴会では特設の舞台でカラオケを歌ったりするが、この舞台で映画を流させてもらった。
もう一つの目的は田中将軍から直接メッセージをもらうことだった。東龍宮の宮主石羅介さんは神々を体に憑依させる童乩と呼ばれるシャーマンだ。東龍宮では祭りの際などに田中将軍をはじめとする神々が石さんに降臨するので、信徒らは神様からお指図を受けようと真剣な眼差しで相談をする。

田中将軍が憑依し人々の悩みに耳を傾ける石さん
会議で映画のパンフレットに誰からコメントをもらおうかと相談していた時に、ふと、石さんを通じれば直接、田中将軍からコメントをもらえるのではないかと思いついた。お世話になった神様からお言葉をもらいたいという気持ちからであるが、もちろん話題作りになるだろうという、やましい気持ちがないということもない。おそらく神様から直接もらったコメントが掲載されている映画のパンフレットは、世界初であろう。
23日の夕刻、実際に田中将軍が憑依すると、田中将軍の方から「藤野さんは? こんばんはですね!」と日本語で声がかかった。なお、石さんは日本語を勉強しているが、「こんにちは」とか「ありがとう」と言った単語を知っている程度で、会話はできない。
しかし、田中将軍は終始日本語で語りかけ、日本語での問いかけにもすべて日本語で応答した。普段の石さんであれば理解できない日本語で質問に対応した回答をするのだ。確かにたどたどしい部分はあるのだが、台湾語で相談に乗っている時も同じくところどころ意味をなさない部分があり、審神者役の人がその意図を解釈しているので、同じようなものだ。
これまでも台湾の神がかりは見てきたつもりだ。シャーマンは神の力を示すかのように、体を傷つけ激しく流血したり、針で体を貫通させたりと常人離れしたパフォーマンスを行う。石さんも、神が憑依している1時間以上の間、瞬きをしなくなる。
これまでも田中将軍は日本人なのだから、日本語で相談できるとは聞いていたのだが、日本語のようなしゃべり方をして日本語の単語がいくつか混じる程度なのだろうと疑ってかかっていた。実際に田中将軍が憑依すれば日本語でやり取りできることを見せつけられ、正直理解が追いつかず驚愕している。祈りの現場では研究室での読書だけでは想像もつかないことがしばしば起きる。フィールドワークの面白さは果てしない。
では、この映画に対して田中将軍が何を語ったのか。それは動画を用意したのでぜひ、そちらを見ていただきたい。
藤野陽平
ふじの・ようへい 1978年東京生まれ。博士(社会学)。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所研究機関研究員等を経て、現在、北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院教授。著書に『台湾における民衆キリスト教の人類学――社会的文脈と癒しの実践』(風響社)。専門は宗教人類学。
















