カンタベリー大主教 宗教間対話賞を異例の撤回 ビンラディンめぐる過去発言が問題に 2026年9月19日

英国国教会のカンタベリー大主教公邸ランベス宮殿は9月17日、パキスタンのイスラム指導者ハフィズ・ムハンマド・タヒル・マフムード・アシュラフィ氏に授与した「和解と宗教間協力のためのヒューバート・ウォルター賞」を撤回したと発表した。アシュラフィ氏が2007年、国際テロ組織アルカイダの指導者だったオサマ・ビンラディンをめぐって行った過去の発言が改めて問題視されたため。賞が授与されたのは米同時多発テロから25年となる9月11日で、わずか6日後の異例の撤回となった。
ランベス賞は、英国国教会や聖公会共同体、社会への顕著な貢献を顕彰するカンタベリー大主教の賞。現在の制度は2016年に整備され、過去には教皇フランシスコや英国のエリザベス2世も受賞しており、今年はサラ・ムラリー氏がカンタベリー大主教就任後初めて授与し、27人が選ばれた。アシュラフィ氏は、パキスタンで宗教間の調和を促進し、特にキリスト教徒をはじめとする宗教的少数者を長年支援してきたことが評価された。
ところが授賞後、アシュラフィ氏が2007年、英国政府が作家サルマン・ラシュディ氏にナイト爵を授与したことに抗議し、ビンラディンに「サイフッラー(神の剣)」の称号を授けると発言していたことが英国で改めて報じられた。当時の報道では、アシュラフィ氏が率いるパキスタン・ウラマー評議会がこれを「イスラム戦士に対する最高の称号」と説明していた。
ランベス宮殿は17日の声明で、宗教間対話と協力では「深く根ざした相違を超えて互いに関わる」ことが重要との原則は変わらないとした上で、アシュラフィ氏の「過去の発言が明らかになった」ため賞を再検討し、撤回したと説明。本人にも決定を通知したという。
一方、アシュラフィ氏は、過去の発言が「文脈を無視して」紹介されていると反論している。パキスタン紙『エクスプレス・トリビューン』によると、ランベス宮殿から撤回前に、ビンラディン、ラシュディ氏、パキスタンの冒瀆法などについて説明を求められたという。ビンラディンをめぐる発言については、宗教をテロに利用することには反対しており、当時はラシュディ氏への叙勲がイスラム教徒に与えた侮辱を説明する「例」として称号に言及したと主張した。また冒瀆法については、法律の維持を支持する一方、乱用には反対する立場を示している。
問題はランベス宮殿の受賞者選考にも波及している。パキスタン教会のモデレーター(首座主教)でライウィンド教区主教のアザド・マーシャル氏は、受賞を祝う書簡で、前カンタベリー大主教ジャスティン・ウェルビー氏のパキスタン訪問時に、自らアシュラフィ氏を賞の候補として推薦したことを明らかにしていた。マーシャル氏は、アシュラフィ氏の「平和、和解、穏健主義、宗教間・宗派間の調和、宗教的少数者の権利」への長年の貢献を評価していた。
パキスタン国内では、過去の発言が公開情報として確認できたにもかかわらず、なぜ十分な検証を経ず国際的な賞に推薦されたのかとの批判も噴出。現地のキリスト教人権活動家からは、宗教間対話そのものを否定するのではなく、平和や和解の功労者として公的に顕彰する際には、透明性と慎重な審査が必要だとの声が上がった。
撤回後も事態は収束の目処が立っていない。『エクスプレス・トリビューン』によると、ランベス宮殿が賞を撤回した翌18日、パキスタン教会はラホールでアシュラフィ氏に独自の「グローバル平和賞」を授与。授与したのは推薦者でもあったマーシャル氏で、平和、宗教間の調和、対話、非イスラム教徒の権利擁護への貢献を改めて評価した。マーシャル氏は、アシュラフィ氏が国内外で宗教間の平和と調和を促進し続けていると述べた。
ランベス宮殿は撤回声明の最後で、パキスタンのキリスト教徒と、同国および世界で宗教間対話と調和のために働く人々のために祈り続けると表明している。
Matt Brown - https://www.flickr.com/photos/londonmatt/54636532030/, CC 表示 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=169852410による















