【書評】 『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』 鈴木エイト

 今やメディアでその姿を見ない日がない著者初の単著。旧統一教会の政治戦略が転換した2000年代後半以降に焦点を当て、自民党との連携がいかにして構築されてきたのか追及する。

 「ターニングポイントとなったのは2000年代後半。全国の複数都市において統一教会系の霊感商法販社が摘発され、その追及が東京都渋谷区松濤の本部教会にまで至ることや宗教法人解散命令へ発展することを危惧した教団松濤本部は、組織防衛のため政治家対策を強化。一連の働きかけが露わとなったのは12年12月の第2次安倍政権発足以降のことだ。奇しくもこの年の9月、文教祖が死去、最高権力者となった妻の韓鶴子総裁は、後継者候補だった息子たちを追放し独裁体制を構築。日本の教団組織を指揮系統下に置き、政界工作に従事させた」(「プロローグ 安倍元首相が殺害されるまで」)

 この頃、旧統一教会は衰退傾向にあったが、安倍政権との関係強化によって教団の政治組織が活況を呈するようになる。元々、安倍元首相は教団サイドと距離を置いていたが、自身の悲願達成のために手を組む選択をした。

 「2012年12月、政権を奪取した安倍晋三は悲願である憲法改正の実現に向け、長期安定政権を目論んだ。そこで、組織票にとどまらず無尽蔵の人員を派遣してくれる使い勝手の良い教団を利用しない手はなかったのだろう。安倍は目先の国政選挙や改憲運動を進めるために、 最も関係を持ってはいけない相手からのアプローチを受け入れる。教団サイドと距離を置いていたはずの安倍は、自身の政治的野心と引き換えに危険な取引を結んでしまう」(「第一章 発覚した首相官邸と統一教会の〝取引〟」)

 第二次安倍政権の8年間で教団との共存共栄が確立され、そのような関係性は菅政権、岸田政権へと継承される。そこにはどのようなギブ&テイクがあったのか、鈴木氏は取材を通して見えてきた事実を積み重ねて明らかにしていく。

 2016年、SEALDsのライバルを標榜する保守系大学生グループ「ユナイト」が結成され、「日本共産党にだまされるな」「憲法を改正しよう!」「安倍政権を支えよう!」と書かれたプラカードを掲げて大規模なデモ行進をした。この活動を当時、自民党IT戦略特命委員長を務めていた平井卓也議員が自身のSNSで拡散した。

 彼らは改憲を支持する若者で、「ユナイト」は「自主的」「自発的」な活動であるという触れ込みだったが、鈴木氏の直撃取材に対して教団の2世信者であることを認めた。また、「自主的」「自発的」に参集したという触れ込みもほころびを見せた。初めて共産党が自民党にとって脅威となっていた参院選前の時期に、安倍政権を支持し共産党を糾弾する大学生グループが結成され、全国の街頭に現れデモや演説をするというのは、あまりにもタイミングが良すぎる。

 「安倍政権にとって統一教会は、様々な便宜と引き換えに票を集めてくれる使い勝手のいい集票マシーンというだけでなく、信者を総動員し運動員やスタッフ派遣、後援会結成など多岐にわたりバックアップしてくれる便利な存在でもある。一方、教団側は政権の庇護の下で体制を維持し、勢力拡大を図ってきた。利害が一致した両者は、歪な共存関係を続けた。その共存関係に担ぎ出されたのがユナイトメンバーに代表される従順な2世信者たちだった。安倍政権の推し進める改憲政策のイメージ戦略を担った学生組織ユナイトの存在は、『彼ら』の目論見とは逆に日本の中枢で横行する『政権と問題教団との癒着を示す重要証拠』と化した」(「第二章 利用される2世信者たち」)

 自民党からは、教団大規模集会に来賓出席したり祝電を送ったりする国会議員が続出。韓鶴子総裁を「マザームーン!」と連呼した山本朋広議員は防衛副大臣に就任した。18年10月に発足した第四次安倍改造内閣で環境大臣に抜擢された原田義昭議員は旧統一教会と昵懇関係にあり、講演会で韓国大統領の名前を「文在寅」ではなく「文鮮明」と言い間違えた。クリスチャン議員として知られる石破茂元自民党幹事長や山谷えり子議員も統一教会との関係が発覚している。

 「地盤・看板・鞄の〝3バン〟を持たない政治家にとって、後援会を結成し事務所スタッフから選挙運動員まで必要な人員を派遣してくれる統一教会はありがたい存在だ。ピンポイントで選挙運動員や演説会の聴衆の数合わせに使う政治家もいる。その見返りは秘密裏に教団イベントへ来賓出席するだけだ」(第十一章 教団と政治家とのマッチング集会)

 21年9月、旧統一教会が開催した国際集会に安倍元首相とトランプ前大統領がリモート登壇して教団最高権力者への賛辞を述べた。これが安倍元首相襲撃事件の直接的な引き金となった。事件直後は、安倍元首相と教団の関係性について矮小化を図るような言説が目立ったが、多くのメディアが続けて報道することで自民党と教団との接点が次々と明るみになり、今国会では旧統一教会被害者救済新法が成立した。

 「私は照会があった各メディアへは惜しみなく資料を提供した。私には情報を出し惜しみして疑惑の追及を独占しようなどという意図は全くない。私自身が調査しきれていないことが多々あり、穴だらけだったパズルのピースが各メディアの調査取材によって徐々に埋まっていく様子を興味深く見ていた」(「第十九章 2022年参院選、安倍晋三暗殺」)

 エピローグで著者は、山上徹也容疑者の起こした事件は決して正当化されることではないとしながらも、選挙に勝つことや保身に走り、「使わなくては損」とばかりに教団やフロント組織と関係をもった政治家の道義的責任が大きいと指摘。安倍元首相暗殺事件の背景には、カルト被害者および家族の苦しみと、そのような社会的弱者に目を向けなかった政治家たちの態度がある。

 2007年、都内の某区議選に初出馬した無名の女性候補者は、教団の信者数十人を動員してトップ当選を果たし、同様にして二期目の選挙にも当選した。この件を鈴木氏が脱会者からの情報提供を元にして記事にして報じると、その区議は「(運動員が教団信者だと)初めて知りました。(教団とは)全く関係ありません」と弁明し、信者を使い捨てにしたという。この区議は教団の礼拝などに参加していたので、信者は「統一原理を受け容れてくれた」と思ったからこそ運動員として支え続けたが、そのような「心情」はあっけなく裏切られたのだ。著者は本書を次のように締めくくる。

 「信者の人権を無視してその人生を奪う教団も問題だが、その信者を私利私欲のために使い捨てにする政治家は更に問題視されるべきだ。私がカルト団体による人権侵害だけでなく、政治家の問題を追及するモチベーションは此処にある」(「エピローグ」)

カルト被害に備えるために 統一協会の「今」~その知られざる実態 鈴木エイト(『やや日刊カルト新聞』主筆) 2018年4月1日

 

【1,760円(本体1,600円+税)】
【小学館】978-4093801232

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