カルト被害に備えるために 統一協会の「今」~その知られざる実態 鈴木エイト(『やや日刊カルト新聞』主筆) 2018年4月1日

 ホームページなどに、「当教会はエホバの証人、モルモン教、統一協会とは一切関係ありません」との注意書きを掲げるプロテスタント教会は少なくない。しかし、わたしたちはその実態をどれほど知っているだろうか。今回、若い学生らの移動が見込まれる新年度を迎えるにあたり、15年間にわたって統一協会を最前線で取材してきたジャーナリストが教団の「今」に迫る。霊感商法、合同結婚式、偽装勧誘、高額献金や訴訟、分派トラブル、政治家との癒着、そして2世をめぐる現状、統一協会・家庭連合をめぐる諸問題は、現在どうなっているのか。

三つの転機

 ここ10年ほどの統一協会に関する事象を見ていくと、転機となった出来事が三つある。霊感商法会社の摘発による教団施設への家宅捜索、教祖・文鮮明の死去、そして教団名の改称だ。

 2000年代後半、全国各地で統一協会系の出版社が特商法違反容疑で摘発された。2009年2月に警視庁公安部が東京・渋谷の印鑑販売会社「新世」を摘発、同社を管轄していた教団の南東京教区事務所や渋谷教会に家宅捜索が入った。組織の保身を優先する教団は「経済活動は信者の個人的活動」と弁明しながらも、徳野英治会長が引責辞任した。以降、あからさまな霊感商法は鳴りを潜め、家系図などを用いた集金手法に変化している。ただし、信者への高額献金ノルマは現在も課されている。

 街頭で横行していた正体隠し勧誘にも変化があった。「新世」の摘発以降、青年部伝道では「手相の勉強」勧誘から「意識調査アンケート」に統一された。しかし、伝道目的を偽ってセミナーに誘う手口は現在も変わっていない。婦人部伝道では、いまだに鑑定士と偽って信者が声をかける手口も散見される。いずれも現在は、後述する教団名変更に伴い、勧誘時に教団名を明かす「証し伝道」が主流となっている。

 元信者やその家族からの訴訟も継続して提起されている。養子縁組を悪用して財産を収奪されたケースのほか、億単位の被害にあった事例もある。

 2012年9月に教祖・文鮮明が死去したことにより跡目争いが激化、教団は分裂した。00年代中後期まで後継者と目された三男・文顕進が完全に放擲(ほうてき)され、その後、宗教部門と経済部門(統一教財団)のそれぞれの後継者とされた七男・文亨進と四男・文國進も教祖の妻・韓鶴子から追放された。北南米を中心に活動する顕進は、教団の資産管理をしていたUCI(Unification Church International)を手中に収めた。亨進は米国でサンクチュアリ教会を立ち上げ、銃砲会社を経営する國進が支援している。日本の教団組織を掌握する韓鶴子派と合わせ、教団は現在この3派に分裂している。

 2014年7月、韓鶴子は、自分は生まれながらにメシアだという「独生女宣言」を行い、自身を神格化した。「文鮮明教祖には原罪があった」とするこの言説に反発したサンクチュアリ教会の日本人信者は、渋谷の松濤本部前で不定期に韓鶴子と徳野会長を糾弾するデモを行っている。これを阻止しようとする本部職員らとの間では小競り合いも起こり、暴力事件にも発展している。

 昨年3月、教団は経費削減のため大規模なリストラを行った。本部でも、老年職員には退職勧告、若手職員には関連機関への出向や一般企業への就職を勧めた。2007年以降の教団の財務状況を見ると霊感商法の売上を含む信者からの献金などによって毎年約500億円の収入があるが、そのうち職員給料などの経費や借入金返済、裁判での和解金、関連機関への支出などを引いた残りの約300億円が毎年〝感謝献金〟として教祖一族へ送金されていた。支出欄には世界日報やワシントン・タイムスなどの国内外の関連機関への補てん金の他、国内では政治家への対策費用も計上されていた。

 今年初頭、徳野会長(13年に再就任)は韓鶴子に年間300億円の献金目標が達成できたと報告している。日本から収奪した資金の一部は、教団の聖地である韓国・清平の整備計画に使われている。

政治家との癒着構造

 教団と政治家との癒着についても触れておこう。2013年3月、都内で開催された教団の政治団体・国際勝共連合の新会長就任パーティには自民党を中心に多くの国会議員が出席した。

 同年夏の参院選では首相官邸と教団との裏取引が発覚。流出した内部文書によると、国会での追及から教団を護る見返りに全国比例区で安倍晋三首相が推す候補者を当選させるべく、首相直々に教団へ選挙協力の依頼を行ったとされる。この候補者が選挙運動期間中に福岡県内の教会施設で行なった講演については「菅官房長官の差配だった」と地元の選挙事務所事務局長が認めている。

 そのほか、安倍総理の側近議員にも教団との昵懇(じっこん)関係が次々に発覚している。2015年8月、統一協会は教団名を「世界基督教統一神霊協会」から「世界平和統一家庭連合」に改称した。それまで文化庁が拒んできた申請が認可されたのは、下村博文文科大臣(当時)が文化庁に圧力をかけたからだと永田町で噂となった。

 2016年6月には首相官邸に徳野会長が招待されており、翌月の参院選で清和会準会員の無名候補がやはり教団の組織票で当選している。16年11月に参議院議員会館で開かれた世界平和国会議員連合の創設式典には、現役閣僚5人を含む63人の国会議員が出席した。

 同年5月に来日した教団の北米会長一行は、自民党本部で高村正彦副総裁らと会談した他、菅官房長官から首相官邸に招待されたと喧伝している。7月には自民党国会議員団8人が、教団のお膳立てでアメリカ外遊を行った。

 1万人集会「孝情文化フェスティバル」が昨年5月以降、東京・千葉・愛知・大阪で開かれており、各地区選出の自民党国会議員が大挙して来賓出席している。8月の組閣では、これらの教団イベントに参加した議員が閣僚や副大臣などの要職に抜擢されている。

 教団と現政権との癒着関係は根深く、それは教団の2世にも派生している。

従順な「2世信者」の葛藤

 2016年初頭「国際勝共連合大学生遊説隊UNITE」(現「勝共UNITE」)が演説活動を始めた。全国に支部を作り、街頭で共産党批判や安倍政権への支持を声高に叫ぶUNITEは「大学生が自主的に結成した組織」としていたが、実際は統一協会の従順な2世信者によって構成されていた。5月末に東京・渋谷で大規模なデモ行進を行った際には、自民党IT戦略特命委員長がSNSで当該デモのニュースを好意的に発信した。連動する政治家の動きからは、UNITEへの政権の関与が疑われた。

 その後、教団の内部メールが流出しUNITEが教団や勝共連合と一体であることが判明した。UNITEが各地で開くセミナーや大会、改憲イベントにも自民党国会議員が多数参加している。

 1992年に桜田淳子らが参加して騒動となった3万双合同結婚式や95年に開催された36万双合同結婚式でカップリングされた信者の家庭で生まれた「祝福2世」が、現在10代後半から20代となっており「2世問題」が顕在化している。

 「2世圏活性化と祝福推進強化」を掲げる同教団。昨年9月に開催した合同結婚式では、日本から参加した信者カップル1400組のうちの約3分の1が2世信者だった。

 街頭での偽装勧誘にも2世勧誘員が動員されており、リーダーである伝道機動隊隊長以下、メンバーのほとんどが2世というグループもある。

 2世に関しては、精神を病み自殺といったケースに至る事例も報告されている。2世が清平の教団施設や渋谷の教団本部のすぐ近くのビルから飛び降り自殺したとの情報もあった。

 2013年に、千葉県で女子高生が数カ月間行方不明になった後に近所の神社で発見された騒動があったが、この女子高生も同教団の2世だった。

 Twitterには、生まれ育った環境に葛藤を抱き悩み苦しむ2世の心の叫びがあふれている。

「普通に自分の好きな人と結婚して子ども産んで宗教と関係なく過ごしたい」

「信仰のない宗教2世の苦悩をもっと世間に知ってほしい」

「親が子供にも強制させるのが分からない。宗教を信じるかどうかは、本人の自由でしょ?」

「祝福式の間中、違和感が体中かけめぐってて、でも母が喜んでるからこれでよかったんだと言い聞かせてた」

「世の中の人間みんな死ねって思う」

「親に心からおめでとうって言ってもらえるには祝福受けるしかないんだなって改めて思って絶望した」

「自分の存在がこの世の恥だと思ってきて苦しかった」

「初めから自分たちの思い描く道を歩ませるつもりで産んだんだよね? 逆に言うと道を外した瞬間、お前の存在価値は無くなったも同然って事だよね?」

「『お父さんとお母さんが教会に出合わなければお前は存在してないわけだから、お前教会の事を悪く言ってるけど、それってつまり自分の存在を否定してる事になるの分かってんのか?』お父さんに言われたこの言葉が一番キツかった」

「本人が信仰するのは勝手だが他人にそれを強要するな」

「傷ついた幼い私の心は、大人になった私が受け止めてあげるしかない」

 現在は教団や親と距離を置いているという2世は語る。

 「祝福という枠組みに苦悩する2世が多い。特に神の血統に転換されたとされる祝福2世は将来同じ2世と祝福を受け、血統を受け継いでいく必要があるため、性と恋愛について厳しく親から制限を受け、異性への自然な感情を押さえつけられ育つ。教会を離れても、恋愛や結婚の問題に悩む2世は少なくない。幼い頃からのトラウマに加え2世以外の一般人との交際や結婚は親を最も悲しませ落胆させるから」

 筆者は昨年、都内で開かれた同教団2世が集まるイベントに参加した。そこでは、SNS上でのやり取りから、初めて実際に顔を合わせた2世同士の交流が見られた。そこでの出会いから、現在は不定期ながらミニオフ会も開かれている。

「異端か正統か」ではない

 教団名の改称で「基督教」の表記が無くなったことについて教団は「教会を中心とした宗教時代から、家庭を中心とした超宗教時代に入った」としている。しかし、信者の教化過程では依然として聖書を曲解した教典『原理講論』が使われている。キリスト教界にとって「世間が同教団をキリスト教の一派と見なしている」という〝誤解〟は看過できないものだ。

 ただし「キリスト教界内での異端問題」と「カルト問題」の混同は、事の本質を見誤ることになりかねない。統一協会は教祖・文鮮明をメシアと崇める教団である。当然、キリスト教界としては「偽メシアだ! 異端だ!」となる。イエス・キリスト以外を救済者として崇める教団は異端と見なされるからだ。だからといって「異端=カルト」ではない。「異端問題」と「カルト問題」は別個のものだ。

 韓国系の正統派キリスト教会の関係者は、統一協会や新天地などを「異端カルト」と呼称することが多い。摂理や新天地のように韓国系の新興宗教団体には統一協会の影響を受けたものがいくつもある。確かに、これら異端と言われる教団にカルトと指摘される団体が数多みられるのは事実だが「異端だから問題」なのではない。内部での深刻な人権侵害など「カルト被害」があるか否かということが重要な視点であり、そこを精査して問題を捉えないと、既成キリスト教団による統一協会批判は「キリスト教界の内輪もめ」との認識を一般社会から持たれてしまう懸念がある。

 桜田淳子の芸能界本格復帰の動きもあり、再び世間の注目を浴びる同教団。その動向を注意深く見ていく必要がある。(文中敬称略)

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