心の葛藤解明に踏み込まず 水戸地裁土浦支部 準強姦容疑の卞被告に「無罪」 2011年6月4日
国際福音キリスト教会(茨城県つくば市)主任牧師で「小牧者訓練会」代表の韓国人宣教師、卞在昌被告が、女性信者に暴行したとして準強姦罪に問われていた裁判で、水戸地裁土浦支部(神田大助裁判長)は5月20日、被告に無罪(求刑懲役7年)を言い渡した。
起訴状によると、卞氏は2007年2月17日ごろ、つくば市内の教会で県内在住の20代女性信者に対し、「自分は神から権威を与えられた特別な牧師」などと信じ込ませ、抵抗できない状態に陥らせた上で暴行したという。これに対し弁護側は、「当時、韓国から来日していた宣教師を接待しており、アリバイがある」などと無罪を主張していた。
「想定していた中で最悪の結果」――。被害者の救出と癒しを目的とする会「FOE」の毛利陽子代表は、ショックを隠し切れない様子で判決への思いを語った。
公判では、女性信者による証言の評価と被告のアリバイを裏付けるとされた写真の信憑性が争点となっていた。判決理由で神田裁判長は、「起訴内容を認定する客観的証拠がなく、女性信者の証言には不自然な点がある」との判断を示した。
「何よりも事実が伝わらなかったのが残念」と毛利氏。被害者が受けるダメージの大きさや今後の人生を考えれば、「早く終わらせたい」というのが正直な思いだが、事実が明らかにならない限り、被害者が癒されることはない。「わたしたちの前で謝罪ができなくても、せめて神の前で悔い改めをしてほしい」
毛利氏によると、今回の判決を受けて「(被告は)再び悔い改めるチャンスを逃した」と話す牧師や、「組織のおかしさを訴えたい」と改めて意を決した被害女性もいるという。
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卞氏および「小牧者訓練会」などを被害者が訴えた一連の裁判を支援する「モルデカイの会(宗教法人『小牧者訓練会』による被害の回復を目的とする裁判の支援会)」は同日、声明を発表し、無罪判決に強く抗議した。
声明は「密室内で起き、物的証拠に乏しく当事者の一方である容疑者が容疑事実を認めない事件では……訴えても何の利益にもならず、かえって自らのプライバシーを公にさらしてしまいかねない危険を冒してまで被害を訴える被害者の声に真摯に耳を傾け、真実を探る一段の努力がなされてしかるべきではないでしょうか?」と訴え、「被告側から提出された証拠の持つ不自然さについて、徹底的かつ十分な審査がなされなかったこと」「被害者が主任牧師に逆らうことで神に見放されると信じ込むに至り、……反復継続的に被害を受けるに至った心理的な過程や心の葛藤などの解明に踏み込まなかったこと」に遺憾の意を示した。
代表の加藤光一氏(国際福音キリスト教会元長老)は、「被告は冤罪などと主張しているが、とんでもない。無罪は『無実』ではない。検察が控訴することを望んでいます」と話す。
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齋藤大弁護士 〝アリバイ認定甘い〟
被害者代理人を務めた齋藤大弁護士は、「被害者証言が信用できない」とした判決に強い違和感を抱く。
被害証言の証拠として検察側が提出した「デボーションノート」について、判決は「記載されている内容が抽象的で被害があったことを裏付ける内容とは言い難い」としているが、「具体的に被害感情を記述できるのは『強姦』被害のケースであり、騙されている被害者は被害を被害と気づけない。『姦淫をおかしたのではないか』と逡巡する気持ちが現れていることこそ、『準強姦』被害証言の決定的な裏付けとみるべき」と主張。
また、被告側が提出した写真について「撮影日時の改ざんの証拠はない」とした判決に対し齋藤氏は、鑑定証人が「時刻情報が人為的に変更されていることが疑われる」と鑑定書に記したことや、「犯行があったとされる日の前日の写真だけが一切ない」「当日も犯行時間帯前後の写真に集中している」「翌日の同じ時間に撮った写真より明らかに暗い」などの不自然な点に加え、「たまたまバッテリーが切れていた」「撮影したカメラや保存した媒体は無くした」などの口実で公正な検証ができていないことも指摘。「これを認めてしまえば、アリバイが容易にねつ造できることになる。過去の判例に比べても甘すぎる」と疑問を呈している。