WCC総幹事 米大使館のエルサレム移転に関する「行き過ぎた暴力」を非難 2018年5月16日
世界教会協議会(WCC)のオラフ・フィクセ・トヴェイト総幹事は5月16日、多くの人々が犠牲になったガザ地区でのイスラエル軍による「行き過ぎた暴力」を非難するコメントを発表した。また、アメリカ大使館のエルサレムへの移転を「神からの贈り物」として祝う一部のキリスト者に対しても懸念を示し、「この移転はあまりにも挑発的な性質を持つもの」としている。
WCC「正義に立つ平和と、聖地エルサレムの赦しのために」
「ガザ地区のデモに対する軍事的対応は、複数の子どもを含む多くの死者、何千人もの死傷者という結果を生んでいます。そしてその数はいまだ増加しています。この暴力と流血は、国際機関によって非難されるべきであり、国際的な調査下に置かれなくてはなりません。事態は、これらの出来事の水面下での一層深い理解を必要としています。
抵抗者たちは、彼らの市民権を、パレスチナ人として自分たちが置かれている現在の状況への不服と失望を表すために行使しています。彼らの家族が70年前に経験した大災害『ナクバ』は、多くのパレスチナ人にとって――特にガザ地区在住の人々にとって――解決法のない居場所のなさと苦しみの原因であり続けています。子どもを含む非武装市民が銃撃され、殺され、多くの人々が傷つけられていることは、『一国の自衛の権利』の表れとして法的にも道徳的にも擁護され得ないことです。これは、イスラエルが本来尊重し保護するべき人々に対する、許されない暴力の行使として受け止められなければなりません。
エルサレムは、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教という三つの宗教が共有する聖地です。聖地における包括的で持続可能な平和は、国際社会が定めた境界線に沿って聖地を2地域に区分するという解決法を基盤としなければなりません。
今回の抵抗は、アメリカ大使館を『分かれていないエルサレム』に移転するという、アメリカの一方的な決定に対するものです。この行為は、エルサレムに関する今までの国連決議すべてに反旗を翻すものであり、平和的で正当な解決法への深刻な障害を生み出しました。エルサレム問題は議論なしに進められたことはありませんでした。むしろ、国連の活動による非常に流動的な平和交渉の議論における最も困難な問題の一つであり続けています。
5月14日の抵抗運動は、アメリカ大使館のテル・アビブからエルサレムへの正式な移転と、イスラエル建国70周年記念祝典に対するものでした。5月15日の抵抗運動は、その70周年記念祝典に焦点が当てられました。パレスチナ人は70年前のこの出来事をナクバ、あるいは大災害と呼び、1948年のイスラエル建国時に何十万人の人々が住処を追われた時だとしています。
WCCは、はかりしれない重要性を持ち三つの信仰と二つの民族に愛されてきたエルサレムという都市の立場は平和交渉を通して解決されるべきであるという長年の理解に、一貫して賛同し続けてきました。
このような時に、すべて行動を起こす者は――特にイスラエルの強力な国家と諸外国は――正義に立つ平和のために努力し、生命の尊厳を最大限に尊重しながら行動し、事態の進行につれてますます高揚するであろうあらゆる形の暴力の制止を実行に移さなければなりません。
一部のキリスト者が、アメリカの決定を神に感謝していることは、地域的にも国際的にも、教会にとって非常に深刻な事態です。この決定は国際法と国際政治を嘲笑し侮辱するものであり、さらにはエルサレムを首都として共有する両民族への国際的な共通理解を基盤とする平和への道程を蝕み、服従させられ圧迫されたパレスチナ人を挑発するものであります。このことは、自らの信仰を和解と平和のための働きに駆り立てるものとして理解するすべての者に関わってきます。
エルサレムの未来に関するあらゆる一方的な決定は聖地における平和への努力を蝕むであろうという前もっての警告が省みられることなく素通りされたということは、現在の暴力と直接関連づけられ非常に悲しむべきことです。このことは決して避けて通ることはできません。このうえさらに、アメリカ大使館のエルサレムへの移転が聖地における状況の永続的な解決策を見つけるだろうという反撃には、わたしたちはたいへん関心を持っています。
わたしたちは国際機関に、国際協定および決議に沿いつつ、聖地に住むすべての人々の切なる願いを尊重した、正当で実現性のある解決法のためのあらゆる努力を性急に惜しまないよう勧告します。巨大な暴力がもつれ合い、ますます増加していく脅威にもかかわらず、わたしたちはWCCのメンバーである諸教会を、希望と次のような祈りの中へ受け入れます。願わくば、平和へのたゆまぬ努力が現在の悲劇的な暴力を克服し、『剣は鋤へ、槍は刈り鎌へと打ち直される』時を導きますように。
WCCは、聖地にあるわたしたちのメンバーの諸教会との連帯を表明し、これからも和解と正義と平和のための彼らの働きの伴走者であり続けます」
翻訳:野川 祈