【新春連続インタビュー〝志〟継いで未来へ】 競技でも人生でも表彰台に 岡本依子さん(シドニー五輪テコンドー銅メダリスト) 2020年2月11日

 全日本テコンドー協会をめぐる騒動で一躍脚光を浴び、昨年末には副会長を退任した銅メダリストの岡本依子さん。現在は大阪市で後進の指導に携わる傍ら、教会の牧師として牧会に励む。これまでの歩みと展望について話を聞いた。

過度の努力は人格を歪める
神様の栄光が現れる組織に

──洗礼を受けたのはいつごろですか?

 2006年8月なので、ちょうどアテネと北京オリンピックの間です。私はずっと韓国で練習をしていたのですが、ある年の12月24日にコーチが通っている教会に誘われて行ったことがきっかけです。教会で行われたクリスマス劇を見た時、「イエス様は素晴らしい方だなあ」と感動して涙がこぼれました。でも、その時点ではまだ信じていなかったんですね。

 実家は真言宗だったし、中学高校とお寺の境内にある学校に通っていたので、小さいころから「日本の神様」の存在は信じていたんです。事あるごとに助けてもらっていると感謝して、仏壇や神社、自然に対してお礼を欠かしませんでした。

 私はずっと、自分でも気づかないうちにイエス様を探し求めていたんです。それまでにも、「この人はすごい」と思う人や憧れた人のところへ学ぶために会いに行ったりもしましたが、そういう方は忙しいから、私のことなんて構う余裕がありません。たとえ気持ちがあったとしても、一人の人がそんなにたくさんの人の面倒を見られるわけでもない。

 でも、イエス様は違います。こんな私の、こんなに小さな心も全部ご存じで、導いてくださって、私のために来てくださった。「ああ、そういうことだったんだ。この方さえいてくだされば、私はもう大丈夫だ」と思える方に出会ったと感じました。

──信仰告白をしてから、人生は変わりましたか。

 まったく違います! 以前は、自分が成し遂げないと何も得られないから、ひたすらがんばって生きてきましたが、今はすべてをイエス様が持っておられるから、「この方と生きる人生を生きたい」と思うことができます。

 トップ・アスリートになればなるほど、失敗を自分の責任として捉えます。自分で決めた目標に向かって、自分の力で成し遂げようとするから、苦しい。自殺しようとまでは思いませんでしたが、「できれば早く死にたい。それができたら楽なのになあ」と思っていました。「いつも明るく笑って、肯定的でいなければいけない」と思っていましたが、それも自分の力でやろうとしていたので、すごくしんどかったです。

──12年にJTJ宣教神学校牧師志願科を受講してからは宣教師として仕え、さらには牧師按手も受けられていますね。

 08年の北京オリンピックに出場した際、1回戦で敗退しました。本当は金メダルを獲って「神様が私にメダルを獲らせてくれました」と言いたかったのですが、口では「神様に栄光を」と言いながらも、自分のことを思っていたかしれないなという気持ちもありました。そんな私に対して、韓国から応援に来てくれていた母教会の牧師が「神学校に行きなさい」と言ってくれたのです。世の中的には失敗した私に対して、神様は「私のために働きなさい」と言ってくださっている。偉大な神様のお仕事を、私のような者に任せようとしてくださる。これからは、こんな私でも主にお仕えできるのだと嬉しく、感動しました。

 按手はイスラエルの建国70周年記念のツアーに参加した際、成田空港で突然決まったんです(笑)。私が神学校の先生に、「韓国に母教会がある私が、日本で牧師按手を受けるにはどうしたらいいですか」と相談したら、「エルサレムで受けたらいい」と言ってくださって。エルサレムでイエスが埋葬された「園の墓」で、30人くらいの、それもいろいろな教派の牧師に祈っていただき、牧師になることができました。

──これからのことについて教えてください。

 ニュースを見ると、テコンドー協会だけでなく、いろいろな問題が起こっています。スポーツは本来、神様が私たちの人生を豊かにするために造ってくださったものです。それが、「このスポーツで結果を出すための人間を育てる」という視点になってしまうと、歪みが生じたり、苦しむ人が出てきたりします。私自身もかつてはその一人でした。

 パワハラなども問題になっていますが、スポーツ選手は、残した成績によって周りからの扱いが変わってしまう。例えばオリンピックでメダルを獲った選手と、獲れなかった選手を思い浮かべると、その差が分かりやすいのではないでしょうか。「自分が神様から造られて、愛されているかけがえのない存在である」ということを選手たちに徹底して知ってほしいです。コーチが選手を愛し、成績よりも彼らの人生を大切にしてあげれば、選手たちは必ず豊かな人生を生きることができます。

 かつて活躍したアスリートが違法薬物使用など、犯罪に手を染めてしまうこともあります。彼らは自分がどれだけ大切な存在かが分からなくなっていると思います。現役時代に素晴らしい成績を残しているということは、人の何倍もの努力をしてきたはずです。でも、自分がそのままで愛されているという土台がしっかりしていないと、過度の努力は人格を歪めて、結局は自分や周りの人を傷つけてしまいます。

 私は、神様の本当の愛に救われましたから、同じアスリートとして、そのように傷ついた人に重荷があります。成績だけを自分の生きる目的にするのではなく、夢や喜びの力で努力することを学び、「人生を豊かにする」という本来のスポーツの意味を回復させるために、オリンピックでいただいたメダルを生かしていきたいです。だから、テコンドーの組織も神様の栄光が現れる組織にしたい。問題が明るみに出たこともチャンスだと信じています。

――ありがとうございました。

(クリスチャンプレスとの共同取材)

おかもと・よりこ 1971年大阪府生まれ。四天王寺高校、早稲田大学卒業。シドニー五輪女子67キロ級で銅メダルを獲得、アテネ、北京と3大会連続出場を果たす。2009年に現役を引退後は、大阪市で「ドリームテコンドースクール」を主宰。テコンドーの普及、スポーツ教室の運営、人材教育などに取り組む。12年、JTJ宣教神学校を卒業後、18年に按手を受け、現在は単立ヴィジョンジャパン教会(大阪市北区)牧師。

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