「日韓和解と平和プラットフォーム」が「光復節」75年で共同声明 東アジアの非核地帯化と平和を希求 2020年8月12日
日韓の市民団体や宗教団体が結成した「日韓和解と平和プラットフォーム」(日韓プラットフォーム)は、8月15日の独立記念日「光復節」の75周年を記念して8月12日、共同声明を発表し、両国の歴史認識をめぐる問題解決と連帯を呼び掛けた。同プラットフォームは昨年夏以降、急激に悪化した日韓関係の状況を鑑み、韓国キリスト教教会協議会、円仏教(ウォンブルギョ)、正義記憶連帯など韓国側16団体と、日本キリスト教協議会(NCC)、ピースボート、日本カトリック正義と平和協議会など日本側16団体で7月2日に発足した。
12日にソウルで記者会見を開いた韓国側の運営委員会は、「日本政府と国会は、関東大震災当時の朝鮮人虐殺事件をはじめ、慰安婦問題やアジア太平洋戦争当時の強制連行や強制労働、性的搾取に対する真相究明委員会を設置すべき」「(両国は)韓半島平和プロセスや日本の平和憲法の維持のために努力すべきで、東アジアの非核地帯化やアジア太平洋地域の平和に向けた共同ビジョンを模索するべき」と主張した。
NCC総幹事で日本側運営委員(書記)の金性済(キム・ソンジェ)氏は、「徴用工問題をはじめ、困難な日韓関係の課題の山積する中、
共同声明の全文は以下の通り。
8・15光復/敗戦75周年 日韓市民社会の共同声明
1945年より75年の歳月を経た今年7月2日、日韓の和解と平和を求める市民社会と宗教者は、世界を襲うコロナ禍の困難をこえて、「日韓和解と平和プラットフォーム」(以下、日韓プラットフォーム)を設立しました。
その設立の背景とは、75年前の8月15日敗戦にもかかわらず、日本は「大日本帝国」による朝鮮植民地支配の歴史責任が、清算されることなく今日まで来てしまったこと、その結果として、昨年、日韓関係が戦後最悪とも言える膠着状態に陥ってしまったことであります。この事態に心を痛め、このまま座視してはならないという危機意識から、今こそ歴史を直視し、その責任の内実を問い直しつつ、日韓の和解と平和を求める連帯の架け橋を構築しようとする決意が、日韓の市民社会と宗教者の間で共有されました。
この75年間、日本と朝鮮半島を束縛してきた不条理とは、何だったのでしょうか。
1875年、日本軍艦による江華島での軍事挑発以来、大韓帝国は圧倒的な軍事力を持つ大日本帝国の圧迫のもとで、日露戦争下での第一次日韓協約、そして日露戦争直後の第二次協約によって大日本帝国の「保護国」へと追い込まれました。そして1910年8月、強制併合され、朝鮮半島の民衆は、36年に及ぶ過酷な植民地支配による政治的弾圧と経済的収奪、そして国家神道に基づく皇民化政策による朝鮮社会・文化の破壊の苦難を被ることとなりました。さらに朝鮮半島は、「大東亜共栄圏」を謳う大日本帝国による中国侵略の兵站基地とされ、多くの人びとが強制連行され、過酷な労働と性的搾取を強いられました。
1945年、日本による15年侵略戦争と植民地支配が終結しましたが、東北アジアはまたたく間に米ソ冷戦体制の桎梏のもとに置かれることになりました。冷戦の不条理は、植民地支配を受けた朝鮮半島には南北分断と朝鮮戦争の悲劇としてあらわれ、一方日本においては、植民地支配の責任の究明が不問に付されたまま、1952年のサンフランシスコ講和条約(日米安保体制)によって、米国の極東軍事戦略を補完する従属国家体制の道を歩む結果となりました。
日本は、朝鮮戦争「特需」によって敗戦の廃墟から経済的に復興する契機を得ました。そして日本は、南北に分断したまま、1953年の休戦後、焦土の中から立ち上がろうとしていた朝鮮半島の南側の韓国とのみ会談を重ね、経済的優位の立場から日韓条約を1965年に締結することとなりました。日本は、その条約に伴う請求権協定において、韓国併合が不当な軍事・政治的圧力のもとに強いられた占領であることの歴史とその謝罪と責任について一切言及することなく、経済協力の美名のもとに韓国政府をして請求権放棄に同意させ、自らの歴史責任を不問に付したのです。
(1)日韓の歴史問題に対して
私たちは、日本による朝鮮植民地支配の起点となった1905年韓国保護条約(第二次日韓協約)が「表題」も韓国側(皇帝)の批准もなく、武力を背景としたものであるゆえに、無効であったという学術的な立証と、国家(大韓帝国)を代表する個人(皇帝)に加えられた強制又は脅迫による条約締結は国際慣例法上無効である事例としてこの条約を挙げる1963年国連報告書の意義を踏まえなければなりません。その歴史的事実の認識に立脚しながら、軍事力の威圧をもって植民地政策を推し進めた日本が朝鮮半島、またアジアの人びとに対する歴史的責任をいまだに果たしていないことを確認し、以下のことを求めます。
① 日本は1939年から1945年にわたり、植民地支配下の朝鮮半島から多くの朝鮮人を強制連行しました。「募集」「官斡旋」「徴用」の形態がありましたが、いずれの段階においても本人の意志に反して連行され、非人間的な環境で労働を強いられました。韓国大法院の徴用工判決(2018年10月)は、強制連行・強制労働を行なった日本企業に対する正当な判決です。私たちは、関連する日本企業が、歴史的事実を直視し、いまだなされていない被強制連行者に対して賠償をすること、そして日本政府がそのような企業責任の履行を妨げないことを求めます。
② 日本政府は2015年、「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録に際して、軍艦島をはじめ日本各地の「世界遺産」で朝鮮人らが「意に反して連行され」「ひどい状態で労働を強いられた」と、強制労働があったことを認める発言をしています。ユネスコは「歴史全体」の説明がなされることを日本に求め、「関係者との対話の継続」を促しています。それにもかかわらず今年3月、東京に開設した「産業遺産情報センター」の展示では、端島(軍艦島)炭鉱を事例として戦時の強制労働を否定する内容となっています。私たちは、日本政府が強制労働の事実を認め、現場の被害者の証言・記録等を収集して「全体の歴史」を展示することを求めます。
③ 日本軍「慰安婦」問題で、今問われているのは、日本軍が立案・管理した性奴隷制のもとで、女性たちが受けた性暴力被害の実態を、日本政府がありのままに認めることです。そのうえで、被害者に受け入れられ、かつ尊厳を回復するような方法で謝罪し、賠償し、二度と同じような人権侵害が起こらないように、さらなる真相究明と歴史教育をしなければなりません。また、日本軍「慰安婦」制度の事実を否定する言動は、被害者の名誉を再び傷つける人権侵害であることを認識し、その効果的防止策を講じるとともに、記憶の継承に取り組むことが日本政府に課せられています。2015年の日韓政府による「合意」(12月28日)で「慰安婦」問題は解決されたという認識を日本政府は改めなくてはなりません。
④ 1923年関東大震災時の朝鮮人・中国人虐殺という大惨事について、これまで研究者や市民団体によって、旧日本海軍「海軍無線電信船橋送信所」から発信された「朝鮮人暴動」のデマや、軍隊・警察・自警団による集団殺害関与の事実が究明されています。朝鮮半島における日本の侵略と植民地支配に対して立ち上がった独立運動・義兵闘争を弾圧していったその流れの中で、この大虐殺も起こされているのです。毎年9月1日、東京・両国の横網町公園において、遺族・市民団体による関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典が行なわれてきましたが、虐殺の事実を認めようとしない小池百合子・東京都知事は、歴代の都知事が代読させてきた追悼文そのものを取りやめました。さらに、極右団体の式典妨害を放置し続けています。私たちは日本政府に対して、歴史資料に基づいて虐殺の国家責任を認め、遺族に謝罪すること、また東京都が97年前のこの歴史事実に誠実に向き合い追悼することを求めます。
⑤ 私たちは、日本の政府と国会が、1923年関東大震災時の朝鮮人・中国人虐殺をはじめ、旧日本軍「慰安婦」・徴用工・軍人・軍属などアジア太平洋戦争下の強制連行・強制労働・性的搾取の事実について真摯に向き合い、真相究明委員会を設けることを求めます。
(2)朝鮮半島の平和プロセス推進と日本の平和憲法
① 私たち日本の市民社会と宗教者は、朝鮮半島の南北分断が今なお人びとを引き裂いている現実について、そもそも日本の植民地統治がなかったならば、民族分断はありえなかったことを強く認識しつつ、民族分断を克服しようとする韓国の市民社会と宗教者の闘いを支持します。韓国の市民社会と宗教者の闘いを支持します。
② 「米国とともに戦争できる国づくり」をめざして、日本国憲法第9条をはじめとする憲法改悪の作業を推し進めている安倍晋三首相は、「2021年9月までの自らの任期中に改憲を果たす」との発言を繰り返しています。を繰り返しています。しかし、世論の多数は9条改憲に反対し、また内閣支持率は過半数を割っています。また、去る8月4日、河野太郎防衛相が記者会見にて、日本の新たなミサイル防衛、すなわち「敵基地攻撃能力」問題について、韓国を含む周辺国の理解を得ることを不要と発言したことは、東北アジアの軍事的緊張を増幅させるものとして、私たちは強く抗議します。私たち日韓プラットフォームは国内外の声を結集して、署名運動、国際キャンペーンなどの活動を通して9条改憲反対の闘いをさらに推し進め、9条の擁護を日韓の平和の中心的課題として位置づけます。
③ 韓国の市民社会と宗教者は、朝鮮半島における平和プロセスの具体的な進展が日本の軍事大国化を阻止し平和憲法を守ろうとする日本の市民社会と宗教者の闘いを激励し、さらに推進することを確認します。それに呼応しながら、私たちは、現在展開しつつある「朝鮮半島終戦平和キャンペーン」に、世界の市民社会と共に力強く参与していきます。
④ 私たちは、日本の安倍政権がさまざまな口実で朝鮮民主主義人民共和国との国交回復交渉を恣意的に中断し、東北アジアの緊張を激化させていることに抗議します。私たちは、朝鮮半島の平和プロセスにおいて日本と朝鮮民主主義人民共和国との国交問題が、連動した課題としてあることを確認すると共に、日本政府に対して中断している日朝交渉をただちに再開するよう求めます。そこでは、日本の歴史責任を明記せず経済協力方式をとった1965年日韓条約の過ちを繰り返してはなりません。
(3)東アジアの非核地帯化と軍縮、アジア太平洋地域の平和に関わる共同のビジョン
① 1945年8月、ヒロシマとナガサキの原爆被爆者全体の1割をも占めるといわれる朝鮮人被爆の実態解明と賠償問題は依然解決されていません。約2200名が生存する在韓被爆者の援護は被爆者と日韓市民らの裁判闘争で実現しましたが、介護手当の支給もなく日韓で内外格差が残っています。約200名とみられる在朝被爆者には「国交の壁」に阻まれて日本の援護が届いていません。私たちは、日本政府が高齢化した韓国・朝鮮人被爆者に対して早急に徹底して援護措置をとるよう求めます。
② 日本列島の南端にある沖縄は、辺野古新基地建設や、宮古島を含む離島における軍事基地化により、基地被害に苦しむだけでなく、戦争を生み出す島となっています。沖縄の米軍基地は、現地において新たな性暴力・搾取の温床となり、さらにアジアの人びとの命を脅かしています。沖縄米軍基地問題は日本自身の問題であることを自覚しつつ、最大の暴力である戦争に抗うために、非暴力によって新たな基地建設を阻止している沖縄の平和の行動を、私たちは支持し連帯していきます。
③ 東アジアの非核地帯化と軍縮のためには、「朝鮮戦争の終結」と「朝鮮半島の統一」が大きな 優先課題です。東アジアの非核化のために、日韓が米国の核の傘から解放され、南北朝鮮と日本が核兵器禁止条約(TPNW)に加入することを強く促していかなければなりません。
(4)日韓次世代の平和教育・人権教育の推進
① 現在、芸能文化面では最も近い国としての日韓交流がありますが、歴史認識には大きな隔たりがあります。日本の学校教育・社会教育において植民地支配に関する歴史教育が不十分なためです。そのギャップを埋めるためにも、学生・青年・市民が現地研修や文化交流を通して出会い、学びあい、未来を共に担っていく連帯意識を育む事業を日韓両政府に求めると共に、私たちはこれまでの日韓交流事業をさらに深め推進していきます。このことを成し遂げるために必要なことは、国際政治という周辺国の政治的、外交的な術策や力ではなく、「和解と平和を願う民衆の声」です。民衆の声を高めることを目標にすればこそ、私たちは日韓双方が直面している課題、特に貧困、差別、そして迫害の問題を共に担い解決するために連帯していかねばなりません。
② 私たちは、日韓の歴史問題に対する正しい認識を探求し共有するために、研究者と連携して「日韓歴史市民フォーラム」を日韓相互に開催し、日韓市民社会それぞれの歴史認識に対する建設的対話を続けていきます。
③ 私たちは日本政府と韓国政府に対して、従前の「国民教育」を改めて、東アジアの和解と平和をめざし、多民族・多文化社会にふさわしい「平和教育・人権教育・多文化教育」へと転換することを求めます。
④ 今日本政府は、朝鮮民主主義人民共和国との外交問題と結びつけて、「高校無償化制度」(2010年4月)、「幼児教育・保育無償化制度」(2019年10月)、「学生支援緊急給付金制度」(2020年5月)から、朝鮮学校(幼稚園・高校・大学)を排除しています。これらの差別的政策は、日本の歴史責任、子どもの教育に関する普遍的権利をまったく無視するものです。私たちは日本政府に対して、これらの措置をただちに撤回することと、在日韓国・朝鮮人をはじめ民族的少数者の人権保障のための法的、制度的施策を求めます。
私たちは、敵愾心と差別、あらゆる暴力と戦争に反対して、暴虐の歴史の中で不条理な苦難を強いられた人びとと共に歩みながら、日韓の真実の和解と平和を目指します。東北アジアの共同体を目指す私たちは、市民社会として、また宗教者として、戦後75年目の8月15日に、以上の認識を共有し、共同の課題に取り組んでいくことを、ここに表明します。
2020年8月15日
日韓和解と平和プラットフォーム
©聯合ニュース/NCC