【夕暮れに、なお光あり】 人生を横切る 川﨑正明 2022年10月21日

 私たちの人生は、出会いを求めて旅をしているようなものだと思う。例えば汽車に乗った時、自分の隣にどんな人が座るか、そこに未知なる人との出会いが始まるという期待がある。その出会いから人生ドラマが生まれる。遠藤周作という作家が著書『死海のほとり』(新潮社)の中で、「人生を横切る人」という言葉を使っている。横切るというのは、単に「すれ違う」という意味よりも、人と人が接点を持つ、つまり「出会い」の別の表現とも言える。遠藤周作はこの本の中で、イエスがポンテオ・ピラトに裁かれる時、「わたしはただ、一人一人の悲しい人生を横切り、愛そうとしただけです」と言ったと書いている。

 漁師ペトロは、ガリラヤ湖畔でイエスに横切られて弟子となった。徴税人ザアカイは、エリコの町を通り過ぎられるイエスをいちじく桑に登って見ようとした時、「ザアカイ、急いで降りて来なさい。今日は、あなたの家に泊まることにしている」(ルカによる福音書19章5節)と言葉を掛けられ、ザアカイの人生は一変した。聖書はこのような出会いのドラマの宝庫とも言える。

 人生を85年生きてきた私は、さまざまな出会いを経験してきた。誕生、家族、入学、学校、職場、教会、結婚……あの日、あの時の出会いが人生を形成してきた。私が出席している大阪府吹田市にある日本基督教団北千里教会で、生年月日が同じ今城啓子さんという方と出会った。お互いの誕生日は1937(昭和12)年2月10日、意気投合してその後、誕生日にはカードの交換や手紙のやり取りなど、その交流は11年間続いた。

 2017年、彼女は胆のうがんを手術、退院後すぐに右腕を骨折、入院と重なる試練にあわれた。そんな中でも「試練は神様から与えられた恵みだった」という信仰が彼女の心を支えていた。しかし、がんが全身に転移して、遂に天国に旅立たれた。81歳の誕生日を共に祝ってから87日目のことだった。私は、お互いに愛読した星野富弘さんの詩を読んで彼女を送った。「風は見えない/だけど木に吹けば/緑の風になり/花に吹けば/花の風になる/今、私を/過ぎて行った風は/どんな風に/なったのだろう」(『鈴の鳴る道』より)。同じ生年月日で、バースデーカードを交換し合った信仰の友が、さわやかな風を残して、私の人生を激しく横切って行った。

 人生における究極の出会いは、神(キリスト)との出会いである。その信仰も含めて私はいつも、「出会いはいつも不思議です。そして出会いが人生を豊かにするのです」と言い続けている。

 かわさき・まさあき 1937年兵庫県生まれ。関西学院大学神学部卒業、同大学院修士課程修了。日本基督教団芦屋山手教会、姫路五軒邸教会牧師、西脇みぎわ教会牧師代務者、関西学院中学部宗教主事、聖和大学非常勤講師、学校法人武庫川幼稚園園長、芦屋市人権教育推進協議会役員を歴任。現在、公益社団法人「好善社」理事、「塔和子の会」代表、国立ハンセン病療養所内の単立秋津教会協力牧師。編著書に『旧約聖書を読もう』『いい人生、いい出会い』『ステッキな人生』(日本キリスト教団出版局)、『かかわらなければ路傍の人~塔和子の詩の世界』『人生の並木道~ハンセン病療養所の手紙』、塔和子詩選集『希望よあなたに』(編集工房ノア)など。

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