「答えではなく問いを」 『神のいのちの物語』出版記念イベントで広瀬由佳氏 2026年8月16日

 キリスト教倫理を研究し、教師としてキリスト教学校の教壇にも立ってきた広瀬由佳氏(平塚聖契キリスト教会牧師)による新刊『神のいのちの物語』(ヨベル)の出版記念トークイベントが8月16日、日本長老教会西武柳沢キリスト教会(東京都西東京市)で開かれた。執筆の経緯や本書に込めた問題意識、牧会上の指針などについて語り、参加者からの質問にも答えた。

 同書は広瀬氏初の書き下ろし。自身の歩みを振り返る「私のいのちの物語」に始まり、組織神学、キリスト教倫理へと展開し、人工妊娠中絶、差別、戦争、死の自己決定権、霊的虐待なども取り上げる。

 広瀬氏は中学1年から、聖書を「信仰と生活との唯一絶対の規範」とする保守的な福音派の教会に通ってきた。大学院進学後、自らにとって「いのちを与えるものだった聖書の言葉が誰かを殺しかねない」「善意が人を傷つけ得る」現実に直面したことが、執筆につながる出発点の一つになったと説明。

 大学院ではセクシュアリティについて研究する中で、聖書の言葉によって教会を離れたり、自ら命を絶ったりする人がいることを知ったという。同時に、自身も固定的な枠組みに合わない人を裁き、「加害者側に立っていた」と振り返った。

 大学院修了後には、こうした問題意識をキリスト教倫理の論文としてまとめたが、「論文では多くの人のところに届かない」と感じ、先輩からの勧めもあって幅広い層へ届けるために、ヨベルでの出版企画が始まった。

 当初、保守的な信仰と現実との間で葛藤する福音派の信徒を読者と想定していたが、執筆を進める中で、「とにかく生きるのが苦手な人に届いてほしい」と考えるようになったと広瀬氏。2年弱を費やした執筆の期間で、自らが「答えではなく問いを提供したい」のだと分かったとも話した。

 「『キリスト者とはこうあるべき』『教会とはこうあるべき』『これは罪』といった答えを整えることで、そこからこぼれ落ちる人がいる。答えを持ってしまったら変われないので、できる限り答えは提供したくない」

 この姿勢は現在の牧会にも反映されており、信徒から具体的な答えを求められることもあるが、「基本的には一緒にぐらぐら揺れていく」ことを重視しているという。

 質疑応答で「答えを出さない」ことと自らの立場を明示することとの関係について問われると、「中立に見える場所」に立つことが結果的に加害側に立つ場合も少なくないと指摘。立場を選ばざるを得ない際には「いのちの側を選んでほしい」としつつ、自身にも「暴力的で抑圧的で排他的なところ」が残っている可能性に触れ、選んだ立場を絶対化することにも慎重な姿勢を示した。

 広瀬氏は同書で「すべて出し切った」と語る一方、新たに書いてみたいテーマについて、ジェンダー・セクシュアリティや聖書における「血」、「悔い改め」などを挙げ、今後の執筆活動にも意欲を見せた。

【書評】 『神のいのちの物語』 広瀬由佳

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