【映画評】 Z世代を象徴するホラー 『バックルームズ』 2026年8月29日

 クラークは結婚生活が破綻し、家具店の経営もうまくいかず、流行りのセラピストに通っても変化の兆しが見えない。八方塞がりの日々を送るある夜、家具店の地下で光る壁を発見。壁をすり抜けた先には、奇妙な部屋や廊下が延々と続く、無人の迷宮が広がっていた。どこか懐かしくも不穏なその迷宮に魅せられたクラークは、夜な夜な徘徊して活動範囲を広げていくが、それは後戻りできない恐怖のはじまりだった。

 『バックルームズ』は2019年、海外の巨大画像掲示板「4chan」に匿名投稿された一枚の画像に端を発する。黄色い壁紙に囲まれ、蛍光灯に照らされた、誰もいない空間の画像だ。添えられたテキストは「もし現実世界から〝ノークリップ(ゲームのバグのように壁をすり抜けること)〟してしまったら、この場所へ落ちる」。その不気味な設定が話題を呼び、世界中のユーザーが新たな設定を追加しはじめ、瞬く間に「みんなで作る都市伝説」と化した。そして2022年、当時高校生だったケイン・パーソンズ(本作の監督を務めている)がはじめて同作の短編映像を制作し、「インターネット上最恐の動画」と称賛されたことで、今回の映画化が実現した。いわゆる〝クリーピーパスタ〟(ネット上の怪談や都市伝説)としてスタートし、ネット上の考察・二次創作文化で増幅され、パーソンズのような若者たちの熱狂的な支持を集めた本作は、まさにZ世代を象徴するホラーと言える。

 「ある空間に閉じ込められて出られない」という古典的な設定が近年再び注目を集めている。似たような設定で世界的にヒットした、2025年の邦画『8番出口』が記憶に新しい。ホラー映画は時代ごとの人々の恐怖を映し出すというが、『バックルームズ』や『8番出口』が映し出したのは、先が見えない現実世界に対して人々が抱く、終わりのない閉塞感といったところか。

 しかし本作が描くのは、息が詰まるような閉塞感だけではない。例えば現実世界のセラピストとクライアントが、迷宮に入ると立場が逆転する。現実世界で正気とされたものが、迷宮の中では狂気にしか見えなくなる。現実世界が「変化してより良い存在になるべき」と絶えず迫るのに対し、迷宮はクラークに「そのままでいい」「変わらなくていい」とささやくように見える。それは一見すると解放だが、同時に自己正当化の罠でもある。そしてクラークが行き詰まっていたのは迷宮の中でなく、そんな現実世界の方だったと気づくのだ。そういったいくつもの逆転を描写することで、『バックルームズ』は現実世界の矛盾や欺瞞をも映し出している。

 ネットのショート動画が大流行し、大きな市場となっている昨今、映画館まで足を運んで2時間の映画を見る行為の意味は、かつてなく変化している。そしてそれを支えているのが、パーソンズのような10代から20代の若者たちであるという統計データが興味深い。これからZ世代がどのように映画を見、どのように作っていくのか、目が離せない。

(ライター 河島文成)

9月4日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開。

© 2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.

映画・音楽・文化一覧ページへ

映画・音楽・文化の最新記事一覧

  • 聖コレクション リアル神ゲーあります。「聖書で、遊ぼう。」聖書コレクション
  • 求人/募集/招聘