「アジア」と「平和」から新約聖書を再考 国際新約聖書学会地域大会が日本初開催 2026年9月16日

 国際新約聖書学会(SNTS)アジア太平洋連携委員会(APLC)と日本新約学会による「SNTS Asia-Pacific Liaison Committee(APLC)/日本新約学会 合同学術大会2026」が9月10~12日、名古屋学院大学名古屋キャンパスたいほう(名古屋市熱田区)で開かれた。SNTS関連の会議が日本で開催されるのは初。14カ国から約50人が現地参加し、スタッフやオンライン参加者を含め約80人が集った。

 大会のテーマは「平和についての新約聖書学的視点(New Testament Perspectives on Peace)」。主催者は開催にあたり、戦争や暴力、社会の分断、不確実性が各地で続く中、「平和」は切迫した問いであり、新約聖書は単純な答えを提示するのではなく、現代の現実と向き合うための多様な視点を提供すると趣旨を説明した。日本新約学会は1961年創立、APLCはSNTSによって2010年に設置されており、今回の合同開催は両者の学術交流を深める節目となった。

 11日の合同プログラムでは、SNTSで国際連携を担当するゲルバーン・オゲマ氏(マギル大学)が「マタイ福音書における平和――歴史とコンテクストの間」と題して開会講演。マタイ福音書5章9節の「平和を造る人々」をはじめ、「平和ではなく、剣をもたらすために来た」とする10章34節や、「剣を取る者は皆、剣で滅びる」とする26章52節など、一見緊張関係にあるテキストを歴史的背景と現代的文脈の双方から読み解いた。オゲマ氏は、マタイが描く平和を単に紛争がない状態ではなく、和解を能動的に生み出し、神への信頼に生きることとして捉えた。

 続いてAPLC会長のカー・ヨン・リム氏(セミナリ・テオロジ・マレーシア)が「アジアにおける新約聖書学の再考――文脈と批評」と題して基調講演し、日本新約学会長の山田耕太氏が応答した。リム氏は、西洋で発展してきた歴史批評的研究と、アジアの社会・文化・宗教的現実に根差した文脈的な読みを対話させる必要性を指摘。古代地中海世界とアジア社会の共通点として、集団志向、名誉と恥、パトロン関係、宗教的多元性、民間信仰、宗教儀礼などを挙げ、「アジア・太平洋神学」を構築する新たな道を探った。

 質疑では「そもそも『アジア』とは何か」という問いも提起された。アジア内部の多様性にどう向き合うか、「アジア」という呼称自体に外部からの植民地主義的な視点が含まれていないかといった問題も議論され、地域独自の聖書解釈をめぐる課題が浮き彫りになった。リム氏の講演については、国内の学会誌への掲載も検討されている。

 12日には「アジアの視点から新約聖書を教える」をテーマにパネルディスカッションを開催。ミャンマー、韓国、マレーシアの研究者が、それぞれの社会的、文化的、歴史的背景を踏まえた聖書解釈や教育の現状を報告した。研究発表は日本新約学会の部で5件、APLCの部で16件(うち2件はビデオ発表)に及び、ヨハネ福音書と戦禍にあるミャンマー・カチン地域、パウロにおける平和、キリスト教ナショナリズムと十字架など、現代社会の課題と新約聖書を結び付けるテーマについて議論が交わされた。

 大会実行委員会は、今回の合同大会を日本の新約聖書学とアジア太平洋地域、さらに国際的な研究ネットワークとをつなぐ機会と位置付けている。国境や文化、教派を越えて研究者が「平和」を共通の問いとして議論した3日間は、西洋中心の研究枠組みを相対化しつつ、アジアから新約聖書をどう読み直すのかという課題と向き合うものとなった。

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