教皇レオ「分断を助長しないAIを」 教派を超えて問われる人間の尊厳と責任 2026年9月23日

 人工知能(AI)の開発と利用を、人間の尊厳や平和にどう結びつけるのか。教皇レオ14世は9月21日、ローマで開かれた国際会議「AI4Peace」にメッセージを寄せ、社会の分断を助長せず、人々の結びつきを強めるAIの開発を求めた。同様の問題意識は、聖公会やプロテスタントの教会・団体にも広がる。技術の可能性を認めながら、その利益を誰が享受し、結果に誰が責任を負うのかを問う動きだ。

 ロイター通信によると、教皇は、紛争と分断が広がる世界で、AI開発には知恵と慈愛に導かれた展望が必要だと指摘。一人ひとりの尊厳を守り、人類家族の絆を強める技術であるべきだと訴えた。教皇庁立ラテラノ大学で開かれた会議では、教皇庁生命アカデミーのアンドレア・チウッチ神父がメッセージを代読した。

 レオ14世にとって、AIは就任当初からの重要課題だ。2025年5月10日の枢機卿団への演説では、教皇名に「レオ」を選んだ主な理由として、産業革命下の社会問題を回勅『レールム・ノヴァールム』で取り上げたレオ13世に言及。今日の新たな産業革命とAIの発展も、人間の尊厳、正義、労働の擁護に新しい課題を突きつけていると説明した。

 その姿勢は、前教皇フランシスコの時代からの取り組みを引き継ぐ。教皇庁教理省と文化教育省が2025年1月に公表した文書『アンティクア・エト・ノヴァ』は、人間の知性を情報処理や課題遂行の能力だけに還元する見方に注意を促した。身体をもって生き、他者と関わり、道徳的に判断する人間とAIを区別し、人の価値は能力や成果によって決まるものではないと強調する。AIの利用による判断についても、最終的な責任は人間が負うとした。

 こうした姿勢は、技術そのものの否定ではない。2020年には教皇庁生命アカデミーがマイクロソフト、IBMなどと「AI倫理のためのローマ宣言」に署名。透明性、包摂性、責任、公平性、信頼性、安全性とプライバシーの6原則を掲げ、企業や政府、国際機関が共同で倫理的な開発を進める枠組みを打ち出した。利益の拡大や人間の労働の代替だけを目的とせず、技術の恩恵を広く行き渡らせることを目指している。

 この枠組みには他教派も加わった。2024年4月には、当時のカンタベリー大主教ジャスティン・ウェルビー氏が英国国教会を代表して同宣言に署名。AIによる進歩は開発者や人類の一部だけの所有物であってはならず、すべての人々と共通善、気候、持続可能な開発に役立つべきだと訴えた。カトリックと聖公会が、技術開発の倫理をめぐって協力する具体例となった。

 世界教会協議会(WCC)などのエキュメニカルな取り組みでは、経済格差や環境負荷への関心が際立つ。2025年8月、WCC、世界改革派教会共同体、ルーテル世界連盟、世界メソジスト協議会などによる共同事業の協議会が韓国で開かれた。参加者による声明は、医療や教育での可能性を認める一方、AIの利益が先進国や多国籍企業に集中し、労働者やグローバルサウスの人々が負担を押し付けられる構造を批判。機器の原料となる鉱物の採掘や、データセンターの電力・水消費にも目を向け、開発への周縁化された人々の参加と労働者の保護を求めた。

 2026年6月には、WCC中央委員会議長のハインリヒ・ベッドフォード=シュトローム氏も、AIを単純に非難することにも、無条件に歓迎することにも距離を置く姿勢を示した。巨大なデータ企業への権力集中を問題視し、技術の進歩に責任ある利用のルールづくりが追いついていないとして、国際的な市民社会での議論を促した。

 米国の福音派でも、AIの普及に先立って倫理的な検討が進められてきた。南部バプテスト連盟の倫理・宗教自由委員会(ERLC)が2019年に公表した福音派指導者らの原則声明は、人間が「神のかたち」に造られたとの理解を出発点に、差別、労働、プライバシー、戦争などを論じた。人の尊厳を経済的な貢献だけで測ることを退け、AIによって職を失う人々への支援を教会の責任に挙げている。軍事利用については、人間による監督や検証を求め、道徳的責任をAIに転嫁できないとした。

 議論は、教会内の実務にも及ぶ。ERLCが紹介する南部バプテスト指導者らの「AIとキリスト教の働きに関するブレントウッド声明」は、牧師や教会指導者が利用の可否を判断するための指針だ。その起草を担ったジェイソン・サッカー氏は、説教作成を丸ごとAIに委ねる問題や個人情報の保護を取り上げ、効率化を急ぐ前に、何を得て何を失うのかを吟味する必要を説いている。

 WCCも2025年6月、広報業務でのAI利用指針を採択した。翻訳や文字起こし、会議要約などの利点を認めつつ、生成された内容は公開前に必ず人間が確認し、利用した担当者が責任を負うと規定。重要な内容の生成に用いた場合の明示や、機密情報の取り扱いにも基準を設けた。AIへの警戒を述べるだけでなく、教会自身が責任ある利用を実践することを求めている。

 これらの文書や取り組みは、それぞれ位置づけが異なり、各教派のすべての教会を一律に拘束するものではない。それでも、AIの性能や効率だけを進歩の尺度にせず、人間の尊厳と関係性、弱い立場に置かれた人々への影響を問う点には共通性が見られる。

(翻訳協力=中山信之)

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