【熊本地震レポート⑥】 「平時の備え」が災害時を支える 地域の「居場所」と担い手を後方支援 WVJ・高橋布美子 2026年10月8日

 熊本県宇城市の光照寺(糸山公照住職)の境内に、エアコンを備えた1棟のコンテナハウスが置かれている。地震で地域の子どもたちの遊び場が失われる中、国際NGOワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ、中島みぎわ事務局長)が企業との連携で設置したものだ。

 WVJの高橋布美子さん(国内支援・アドボカシー課課長)=写真右=によると、きっかけは同団体のスタッフを通じて糸山さんを紹介されたことだった。光照寺が平時から子ども食堂などを行っていることを知り、被災後の子どものニーズや、居場所として使える場所がないかを尋ねるために訪ねた。

 WVJは以前から、災害時の居場所づくりなどでテントを扱う企業と連携してきた。今回も猛暑下で子どもの居場所を確保するため、屋外に冷房付きテントなどを設置する取り組みを進めていた。

 光照寺でも当初はテントの設置が検討されたが、現地を確認すると、子どもが普段使っていた空間は支援物資の置き場となり、本堂も開放したままで冷房が効かない。糸山さんからも「子どもたちが涼める場所がない」と相談を受け、企業側とも検討した結果、テントより密閉性が高く冷房の効くコンテナハウスが適していると判断した。

 WVJにとってもコンテナハウスを使った居場所づくりは初めての試み。短期間の仮設として設置でき、組み立てにも時間がかからない。設置後は子どもの居場所だけでなく、ヨガや地域住民の交流などにも使われるようになった。

 高橋さんが今回の経験から得たもう一つの発見は、「私たちが居続けなくても、地域のものとして使ってもらえる」ということだった。外部団体が場所をつくり続け、運営し続けるのではない。地域ですでに活動している人に場所や資源を託し、その活動を後ろから支える。その方が支援は長く続く。

 それは、熊本での支援全体に通じて言えることでもある。WVJは地震発生から2日後の7月30日に高橋さんら3人を熊本へ派遣。当初は水やおむつなど緊急物資を届けながら、保育園や行政、支援団体などからニーズを聞き取った。特に重視したのが子どもの居場所だった。学校や保育施設が被災し、夏休みと重なったことで、子どもたちは友だちとも離れ離れになった。

 高橋さんによれば、居場所では子ども同士や保護者同士が「大丈夫だった?」と互いの無事を確かめ、「よかった」と再会を喜ぶ姿が見られた。居場所は単なる「遊び場」ではなく、途切れたつながりを取り戻し、心の安定を取り戻すための場にもなった。

美里町の子どもの居場所にて。けん玉講習に大盛り上がりの子どもたち(写真提供=ワールド・ビジョン・ジャパン)

 10年前の震災を機に整えられた行政、社会福祉協議会、NPO、地域団体などによる支援調整の仕組みが早い段階から機能し、どこにどのようなニーズがあり、どの団体なら対応できるかを共有できた。高橋さん自身、10年前の熊本支援には直接関わっていないが、当時活動したスタッフらと今回の現場に入る中で、地域の「経験値の高さ」を感じたという。

 「どんなカオスになるかを、皆一度経験している」

 外から来た支援をただ受け入れるのではなく、必要な力を借りながら、地域が主体となって復旧・復興を進めようとする姿勢があった。光照寺もその一つだった。

 高橋さんは、こうした経験の継承について、地域の民間の担い手が果たす役割の大きさを指摘する。行政では異動によって10年前の担当者が同じ部署にいるとは限らない。一方、地域で活動を続けてきた人は、その経験やネットワークを持ち続けている。平時から地域に根を張っている人の存在そのものが、災害時の「備え」になる。

 その重要性は、災害が頻発する今、さらに増している。能登半島地震に続いて熊本へ入り、その最中にも別の地域で豪雨災害が起きた。災害支援の現場では各地で同じ顔ぶれに出会うことも少なくない。「私たちのように外部から支援に入る団体が、全国をカバーしきれるわけではない」と高橋さんは話す。

 今回、WVJが熊本で支援した居場所の多くは、同団体が一から立ち上げたものではなかった。すでに地域で活動していた住民や団体が始めた居場所を、スタッフや物資、ノウハウなどで支える形だった。そのためWVJが8月末に現地での集中的な活動を一区切りしてからも、居場所そのものは地域の手で続いている。

 「各地に子どもの居場所をつくれる人たちがもっと増えて、それを私たちが後方支援する形にならないと、これからは成り立たないと思っています」

 そのためWVJが力を入れるのが、平時の人材育成だ。災害などの緊急時に、強いストレスを受けた人にどう接するかを学ぶ心理的応急処置(PFA)や、災害時の子どもの居場所づくりなどの研修を、他団体とも連携して行っている。自治体だけでなく、普段から子どもに接している民間団体や保健師、心理師などの専門職から依頼を受けることもある。

美里町の学童クラブへ給食支援としてパン、おにぎり、飲料などをお届け(写真提供=ワールド・ビジョン・ジャパン、8月4日)

 高橋さんは、教会にもその担い手となる可能性があるとみる。建物があり、地域とのつながりがあり、日ごろから子どもや高齢者を含む人々が出入りしている。災害が起きてから初めて「何ができるか」を考えるのではなく、平時から居場所づくりや心のケアについて学び、いざという時に動ける人を増やしておくことができる。

 キリスト教精神に基づくWVJと仏教寺院の光照寺が初めて出会い、子どもの居場所を共につくったことも象徴的だ。必要なのは、すべてを一つの団体が担うことではない。それぞれが持つ場所、経験、人脈、専門性を持ち寄り、足りない部分を補い合うことだ。

【熊本地震レポート⑤】宗派超えた支援、平時のつながりが力に 光照寺・糸山公照住職 WVJのコンテナを地域拠点へ 2026年10月2日

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