【この世界の片隅から】 台湾で神になった日本人 ――ドキュメンタリー映画『軍服を着た神様』今夏劇場公開 藤野陽平 2026年3月11日

台湾で「神」になった日本人がいるのをご存じだろうか。ここではこうした「神」を「日本神」と呼ぶこととするが、その代表格と言える飛虎将軍廟はメディアやガイドブックで紹介される機会も増えたし、インターネットのブログなどには多くの記事がある。しかし、これらの情報は表層的なエピソードの紹介にとどまっている。
どうして日本人が「神」になるのか、かつて日本が植民地として統治した台湾でなぜそんなことが起きるのか、台湾で戦死した日本人の魂が現地でどのように扱われてきたのか。それを知るために、映像作家の遠藤協氏と共に2019年春から日台各地をめぐって足かけ6年にわたり撮影を続け、今般『軍服を着た神様』というドキュメンタリー映画としてまとめることができた。
日本軍人が信仰されているというと、何やら保守的なナショナリズムの影を感じる向きもあるかもしれない。しかし、現地に広がる世界はそれとはまったく異なるのだ。そこにあるのは東アジア共通の基層文化や、複雑な植民経験の記憶、台湾漢人特有の死生観をベースに、シャーマニズムに代表される民間信仰が貫く重曹的で豊かな信仰の空間だ。
台湾には50カ所以上の寺廟で「日本神」が祀られているのが確認できている。その中でも以下の神様を中心に取り上げた。
台南上空で米軍機との交戦中に戦死し戦後神になった零戦パイロットだった飛虎将軍。1871年の台湾出兵に参加し後に、台北市長などを歴任した田中将軍。1944年のレイテ沖海戦のエンガノ沖海戦で戦死し、戦後洋上供養の塔婆が流れつき祀られるようになった樋口勝見先鋒。日本統治期の火葬場で地縛霊になっていた日本将軍とのその婚約者、婚約者の父日本大使などである。

飛虎将軍廟前で行った関係者試写の様子
撮影は2019年に始めたのだが、新型コロナウイルスの感染拡大で3年以上ストップしてしまった。2023年より再開し、今春に編集を終え、この夏の劇場公開に向けて準備を進めている。
撮影の中で「日本神」たちから招かれていたのではないかと思うほど、たくさんの貴重な祈りの場面に立ち会うことができた。そこには東アジアに共通する恨みを残した死者を神として祀ることで鎮めようという信仰や、海の彼方に死者の楽園があるという他界観などだけではなく、台湾の漢人社会に見られる神・祖先・鬼からなる霊魂観とが折り重なっている。「他者」であるはずの「日本神」を祀る台湾人と、日本神が祀られる場所を訪れる日本人との間で、新しいコミュニケーションが起きている。
昨今、日台友好が叫ばれる。しかし、それを達成するには相手が何を畏れ、何を祈っているのかといったことを相互に理解しようとする姿勢から始められるべきではないだろうか。本作を通じて台湾人の精神に寄り添うことで、日台のあり方について再考するきっかけとなれば幸いだ。
*3月20日からクラウドファンディングも下記のリンクにて開始します。ご支援いただけましたら幸いです。
https://motion-gallery.net/projects/giamu-movie
*下記のリンクから「特報」用の映像もご視聴いただけます。
https://vimeo.com/1132104004/f639d4021b














