「あなたは大切」を具体化する教育へ キリスト教教育と包括的性教育考える 2026年8月29日

 全国キリスト教教育主事の会が主催する公開研修会・事前学習会「キリスト教教育の中で考える『性と生』――『性は人権』という視点から、包括的性教育を考える」が8月28日、日本基督教団天満教会(大阪市北区)とオンラインで開かれた。第63回研修会の一環。複数のキリスト教主義学校で聖書科非常勤講師を務める澤田果歩氏が講演した。

 澤田氏は、キリスト教教育の根底には「人は誰もが神に創られたかけがえのない存在」との理解があり、自他の尊厳を守る人格形成を目指してきたと指摘。一方で、「あなたは大切」「隣人を自分のように愛しなさい」と言葉で伝えることと、実生活で大切にされていると実感し、他者を大切にできることとの間には「距離」があると問題提起した。

 そこで着目したのが包括的性教育(CSE)。妊娠、避妊、性感染症など身体に関する知識だけでなく、人間関係、人権、ジェンダー、暴力、コミュニケーション、意思決定などを幅広く扱い、「性について学ぶことは『自分の人生をどう生きるか』を学ぶこと」だと説明した。子どもを「教えられる客体」ではなく「学びの主体」と位置付け、大人がすべての答えを持つ必要はなく、「一緒に調べてみよう」という姿勢から始められるとした。

 キリスト教の伝統的な性理解と包括的性教育との間には、性的指向や性自認、結婚、家族、身体の自己決定などをめぐって「緊張」が生じ得ることも認めた上で、「どんな性のあり方が正しいか」を論じる前に、目の前の人の尊厳や意思、選択が守られているかを問う必要があると強調。「一人ひとりの尊厳を守る」ことを両者の接点に挙げた。

 聖書科での実践として、中学2年生の「カインとアベル」を教材に、怒りの背後にある感情に目を向け、自分も相手も尊重して意思を伝える「アサーション」や「Iメッセージ」を学ぶ授業を紹介。高校2年生では「隣人を自分のように愛しなさい」との言葉から、「愛」と「支配」の境界を考え、デートDVや同意、バウンダリー(境界線)について学んでいるという。

 参加者からは、キリスト教教育が時に「何でも素直に『はい』と言うこと」「意地悪されても我慢すること」を強いてきたのではないかと振り返り、「自分を大切にすること、他人の犠牲にならないこと」を教えることこそ、本来のキリスト教教育ではないかとの声も寄せられた。元聖書科教員の参加者は、かつて性行動を理由に退学となった女子生徒に十分寄り添えなかったことを振り返り、「いまだに申し訳なく思っている」と悔いをにじませた。

 澤田氏は、「『あなたは大切』と伝える教育から、『あなたが大切にされるとはどういうことか』を一緒に学ぶ教育へ」と呼びかけ、包括的性教育との接続によって、キリスト教教育をより具体的、実践的な「尊厳の教育」へ展開できるのではないかと期待を寄せた。

 同会は10月、沖縄で現地研修会を予定しており、その一環として高里鈴代氏による「女性の人権・沖縄から」(仮、10月14日)と、助産師の菊谷愛子氏による「いのち 性 人権 平和 沖縄での性教育」(同15日)の2講演をオンラインで一般公開する。

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