孤立する地域に宗教は何ができるか キリスト新聞社80周年企画 札幌で〈問いを旅する〉第1弾 2026年9月1日

キリスト新聞社の創刊80周年と、佼成出版社が運営する「ちえうみ」の3周年(佼成出版社創立60周年)を記念したコラボ企画、シリーズ「宗教と社会の対話〈問いを旅する〉」の第1弾「宗教×福祉×地方創生 いのちを支える場所へ――宗教・医療・地域が出会うとき」が8月23日、日本バプテスト連盟札幌バプテスト教会(札幌市中央区)で開かれた。
同シリーズは、人口減少や地域コミュニティの衰退、孤立や分断が進む中、宗教を信仰者だけの問題としてではなく、福祉、医療、文化、平和など現代社会の諸課題と結びつけて考え、「いま宗教が社会とどう関われるのか」を探る連続企画。第1弾では、精神科医の香山リカ氏、『キリスト教入門の系譜』著者の岡本亮輔氏(北海道大学教授)、宗教社会学を専門とする問芝志保氏(東北大学大学院准教授)が登壇し、本紙編集長の松谷信司が進行を務めた。
冒頭、現在はむかわ町穂別で地域医療に携わる香山氏が、北海道の地方が直面する現実を紹介した。穂別周辺では60~70キロ圏内に他の医療機関がなく、常勤医2人で地域医療を支えているという。教会も近くにはなく、礼拝に通うだけでも長距離の移動を余儀なくされる。「孤立した地区で、本当にギリギリ精いっぱいに毎日を生きている人たち」に対し、宗教がどのような役割を果たせるのか、あるいは果たせないのかを考えたいと問題を提起した。

議論は、医療と宗教の境界にも及んだ。香山氏は精神科医療の現場で、自分は「誰からも愛されていない」と訴える患者に接してきた経験から、医療者という立場では「神様はあなたを愛している」と簡単には言えないもどかしさを語った。一方、問芝氏は、布教や勧誘を目的とせず、病院やホスピスなどで患者や家族に寄り添う「臨床宗教師」の取り組みを紹介。東日本大震災後の東北では、寺院がボランティアの拠点や地域の社会基盤として力を発揮した例も多いとし、政治的活動とは異なる草の根の社会参加に宗教の可能性を見出した。
札幌出身で葬儀や墓、看取りを研究してきた問芝氏は、北海道特有の宗教事情にも言及した。札幌では明治以降、各地から移住してきた人々が故郷へ遺骨を持ち帰る必要から火葬が早く普及し、住宅事情を背景に葬儀会館も全国に先駆けて発展したという。さらに都市計画によって寺院が墓地を持ちにくく、市内の民営霊園が極端に少ないなど、本州とは異なる葬送文化が形成されたと説明した。家族葬や直葬の広がりも東京などより早かったという。
岡本氏は、日本社会では、七五三や初詣は神社、葬儀や先祖供養は寺院、個人的な悩みは新宗教といった「宗教分業」の構造が長く形成され、その中でキリスト教が居場所を得にくかったとの見方を示した。また、プロテスタントでは聖書を読み、理解するという知的な営みが入り口から求められ、内村鑑三らをはじめ「男性知識人の宗教」として受容されてきた側面もあると指摘。宗教施設が地域のインフラになり得る一方、牧師や僧侶のなり手不足、寺院や教会そのものの経営基盤をどう維持するかという課題も俎上に載せられた。

後半には、会場となった札幌バプテスト教会の牧師である石橋大輔氏=写真下=も加わり、地域に開かれた教会づくりの実践を報告した。石橋氏は牧師になった当初、仕事や生活に困難を抱えた若者がハローワークの帰りに教会へ立ち寄り、聖歌隊や奉仕活動に参加するうちに元気を取り戻し、就職すると教会に来なくなるという経験を何度もしたという。当初は戸惑ったが、やがて「教会に来たことで、教会に来なくても元気に過ごす」ようになることも、教会が果たす役割ではないかと考えるようになった。
大きな転機となったのがコロナ禍だった。それまで「教会に来てください」と呼びかけてきたが、それが言えなくなったことで、むしろ教会の側から地域へ出ていくことを意識するようになった。支援活動を始めると、「信じるつもりも、信者になるつもりもないけれど、その活動なら手伝える」と地域住民が参加するようになり、現在では信徒ではない多くのボランティアと協働しているという。
石橋氏自身もPTA会長や教会付属のひかり幼稚園園長を務め、牧師として教会の外へ出ることを心掛けてきた。「教会の信徒になる人を増やすこと」だけを牧師の仕事と考えていたころは苦しかったと振り返り、今では教会が大切にする精神に共鳴する人々と、それぞれの立場のまま一緒に地域の課題に取り組めるようになったと語った。石橋氏は現在、PTAのほか複数の地域活動にも携わっている。

今回の対話から浮かび上がったのは、宗教が社会に「何をしてあげられるか」という一方向の問いだけではない。医療や福祉だけでは受け止めきれない苦悩にどう寄り添うのか。信者を増やすことを目的とせず、地域の人々とどう協働できるのか。支える側の宗教施設や宗教者自身も高齢化や人手不足に直面する中、誰とどのように支え合うのかなど、多くの課題を共有した。
シリーズ第2弾は9月21日午後5時から、日本聖公会広島復活教会(広島市中区)で開催。テーマは「宗教×サブカル×世界平和 マンガ・アニメ・信仰から問う『平和』のカタチ」。カトリック防府教会主任司祭の大西勇史氏、広島大学大学院准教授で仏教学者の大谷由香氏、曹洞宗八屋山普門寺住職で臨床心理士の吉村昇洋氏が登壇する。マンガやアニメに描かれてきた宗教、祈り、死生観を手がかりに、現代における「平和」のあり方を語り合う。定員100人、参加費1千円。申し込みは特設サイト(https://toiwotabisuru02.peatix.com/)から。
















