〝子どもの心に響く語りを〟 尾松純子さん「語り」の世界 2006年9月16日

 今年7月、聖公会神学院(東京都世田谷区)において、「子どもの心に響く語りをめざして」と題する日曜学校教師のための研修会(日本聖公会東京教区SS連絡会主催)が行われた。

 講師は、「おはなし夢夢」主宰の尾松純子さん(立教大学非常勤講師)。「言葉の種を蒔く人」と紹介された尾松さんは、身の丈ほどもある大きな手さげから次々と七つ道具を取り出した。その「道具」を手に、声色を使い分けながら次々と物語を紡ぎ出す姿は、まるで魔法使い。

 あふれるようにわいてくる「語り」の数々。語り始める前の一瞬の間。その瞬間、聞く者は物語の世界に自然と引き込まれてしまう。その日集まった日曜学校の教師らも、時を忘れてその魅力的な世界に浸った。

 まずは簡単な手遊びと歌で、子どもの心をつかむ。お話会では初対面の子どもたちに話をすることが多いため、いかに心を通い合わすことができるかが勝負。約40分の間に、手遊びから手袋人形、小さなパネル・シアター、昔話(物語)、(大きな)パネル・シアターと続くお話会の構成は、試行錯誤の上にできあがったものだという。できあがってみて気付いたのは、子どもの言葉の成長段階をそのままなぞっているということ。特に、さまざまな成育歴を持った子たちがいる今日、言葉を丁寧に手渡していきたいという願いが込められている。

 どんな民族もわらべ歌や昔話をもっている。昔話は子どもの心の世界を広げ、生きる力を育む。「人生の分岐点で援助者の力を借りながら、自分の力で艱難を乗り越え幸せになれるという物語のパターンは、子どもに人生の幸福を約束してくれる。子どもたちは登場人物から、『こんな生き方、選択肢もあるんだ』と気づかされる」と尾松さん。

 「語り」を続けて25年。頭の中には、400を超える作品がつまっているという。「語り」の対象は「赤ちゃんからお年寄りまで」、舞台も「四畳半から劇場まで」と幅広い。これまでも全国のあらゆる場に赴いて、「言葉の種」を蒔いてきた。

 「語り」のポイントは「くり返し」。同じ音、同じリズム、同じストーリー展開の「くり返し」が夢中になって聞ける「みそ」だという。ゆっくりしたテンポ、単調な音階が、心の安定を育む。子どもたちは先の展開まで読み、言葉を合わせながら安心してストーリーに乗っていけるのである。

 尾松さんの「道具」はすべて手作り。もちろん絵も自筆。絵が苦手だという教師も多いはずだが……。「うまく書こうと思わなくていいんです。絵本を参考に、まねをして書くうちに、次第に上達するはず」と、自らの体験を踏まえて教えてくれた。そして、「語り」に欠かせない記憶力を高めるには……。「始めは1行、2行から、1分、2分と増やしていくうちに覚えられます。暗記するのではなく、イメージを伝えようとすることが大事。昔話はもともと口伝による再話で伝えられてきたものなので、覚えやすいようにできています」と、心強い助言をもらった。

 子どもを取り巻く暗いニュースを聞くたびに、心を痛めているという尾松さん。事件を起こす子どもたちは、共通して「自分を語る言葉を持っていない」「無条件に話を聞いてもらった体験がない」のだという。彼らは家があっても居場所がない。親がいても存在しない。そんな子たちに、楽しい言葉を届けたい、気持ちのいい言葉を蓄えてほしいと願う。そのことが、人間への普遍的な信頼を育むことにつながると考えている。

 語ることは、聞き手の声に耳をすますこと。子どもの声を聞き取って、たった一人うなずいてくれる人がいれば、その子は生きていける。本来はそれが親であるべき。でも、誰でもいい。子どもたちの声を無条件に聞いてくれる存在がいてくれたら……。「教会学校も、その役割を担う可能性の一つであれば」と尾松さんは言う。

 

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