スティーブン・リーパー氏が講演 “この4カ月が未来決める” 2010年2月6日

 過去の大戦から半世紀を経てもなお、絶えることのない紛争、テロと報復の連鎖、人命を脅かし続ける格差と貧困、環境破壊――キリスト教の説く「平和」が、それらの直面する諸課題にどう対峙するのか。関西学院大学キリスト教と文化研究センター(栗林輝夫センター長)は昨年9月、その糸口を探るべく、『キリスト教平和学事典』=写真左=を発行した。1月13日には、同書の出版を記念する講演会を東京丸の内キャンパス(東京都千代田区)で開催。講師として招かれた広島平和文化センター理事長のスティーブン・リーパー氏による講演「未来を決める4ヶ月」に、関係者ら約50人が耳を傾けた。

『平和学事典』出版で関学主催

 初めに同書の監修者でもある栗林氏(同大教授)があいさつに立ち、「学内外の知的なパワーを集め、4年がかりで刊行することができた。今回は、『平和』や『正義』を大学のミッションとして掲げていく一歩を踏み出すにふさわしい会になる」と謝意を述べた。
 リーパー氏は講演の冒頭、「『イエスは非暴力を説いた』というのは日本では当たり前かもしれないが、アメリカでは戦争を肯定するキリスト教が圧倒的に多い」とし、アメリカの平和運動を弱体化させている最大の弊害として、「平和」か「正義」かという二項対立を挙げた。
 「人間の暴力的な習性を正すという長期的な課題は、核兵器をなくすという短期的な問題を解決しなければ決して克服できない」と述べ、とりわけ今年5月の核不拡散条約(NPT)再検討会議の意義を強調。「この会議で軍縮への大きな展開がなければ、次の会議までに中近東が〝核だらけ〟になる可能性がある。今まさに核兵器を廃絶するか、多くの国が保有するかの重大な岐路に立っている」と指摘した。
 また、根強く残る「核抑止論」に対しては、「世界には資本主義下のシステムで苦しんでいる人々がたくさんいる。彼らは現在のシステムが破壊されることを恐れておらず、核兵器を手に入れれば躊躇せずに使うだろう。抑止などできない」と反論。その上で、「核拡散か不拡散かではなく、廃絶か使用かの選択肢しかない」と強調した。
 2020年までに核兵器を廃絶する道筋を示した「ヒロシマ・ナガサキ議定書」(平和市長会議)が、今回の再検討会議での採択を目指していることにも触れ、少なくとも廃絶の方向で交渉に向かうかどうかは日本にかかっていると期待を込めた。「そのためにも皆さんの草の根の運動が大事。交渉を始めるよう、世界にメッセージを伝えることができる」
 現職を退任して帰国したら、「イエスの非暴力に倣った日本のキリスト教を逆輸入したい」という同氏。「今は第三次世界大戦の戦前。それを止めようとする動きはまだ見えない。核兵器を止められるかどうかを決めるのは日本だ」と改めて呼び掛けた。

86人が144項目を執筆

 本書の「まえがき」によれば、これまで日本の「平和学研究」はさまざまな問題の解明を試みながらも、それらに絡む宗教性、とりわけキリスト教という世界宗教の内実にまで踏み込んだ究明はあまり見当たらなかった。また、キリスト教に携わる学校が数多くありながら、キリスト教を基礎とした「平和学習」の取り組みは、「さほど系統だって行われてはいないのが実情」だという。
 今回、多岐にわたる144項目の執筆に当たったのは、研究者、宗教者のほか、ジャーナリスト、NGO・NPO関係者など、総勢86人に上る。
 1997年の発足以来、「キリスト教と暴力」「スピリチュアリティ」「民族・文化・宗教」などをテーマに研究を積み重ねてきた「キリスト教と文化研究センター」。同書の編纂は、それらの実績を活かしつつ「現代世界の紛争における宗教的要素を探り、『平和の文化』の一端を担おうとするもの」としている。

メモ
 スティーブン・リーパー=1947年米国生まれ。米ウェストジョージア大学大学院(臨床心理学修士課程)修了。広島YMCA講師、有限会社トランズネット取締役、株式会社モルテン海外渉外アドバイザー、平和市長会議米国代表、財団法人広島平和文化センター専門員などを歴任し、2007年4月に理事長に就任。著書に”Hiroshima Revolution”(グローバル・ピースメーカーズ・アソシエーション)など。
 核拡散防止条約(NPT)=1970年に発効。当時核兵器を保有していた米国、ロシア(旧ソ連)、英国、フランス、中国の5カ国以外の保有を禁じる一方、原子力の「平和利用」は認め、5カ国には核軍縮義務を課した。5年ごとの再検討会議で加盟国が条約の運用状況をめぐり討論。核軍縮を定めた唯一の条約だが、相次ぐ核開発の動きにその体制は揺らぎ、全会一致の最終文書を採択できなかった会議もある。

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