「自死」への偏見・差別の是正向けシンポ 宗教者ら意識改革訴え 2011年2月5日

 NPO法人グリーフケア・サポートプラザ(平山正実理事長)は1月19日、「自死&自死者、遺族への偏見・差別の是正に向けて」と題する講演とシンポジウムを、幼きイエス会ニコラ・バレ修道院(東京都千代田区)で開催した。

 自死遺族や支援グループ関係者など150人が全国各地から参加した。自死者の数が13年連続で3万人を超えるなか、自死者と自死遺族に対する差別や偏見を是正するための意見交換の場として開かれたもの。

追い詰められた結果として受容

 清水新二氏(奈良女子大学名誉教授)が「封印された死とその解除」と題する基調講演を行い、シンポジウムでは、清水氏をコーディネーターに、斎藤友紀雄(日本いのちの電話連盟常務理事)、田中幸子(自死遺族当事者・全国自死遺族連絡会代表)、藤丸智雄(浄土真宗西本願寺僧侶)、森一弘(カトリック司教)、平山正実(精神科医、聖学院大学大学院教授)の5氏がシンポジストとして参加し、偏見・差別の是正に向けて具体的な課題が話し合われた。

 社会学者の立場から自死遺族ケアや自死対策などの行政の仕事に取り組む清水氏。自死遺族の中にも自死に対する距離感や偏見があると述べ、家族に対してその事実を封印していた人の事例を紹介。自死を封印してしまうのは、社会の中に自死に対する厳しいまなざしや偏見があるからだと主張し、「封印された死」が個人的な事柄として受け止められると、遺族の中に自責感が発生すると語った。

 自死が他の死と区別される理由に、「自分で選択した」と理解されることを指摘し、「社会的な状況の中で追い詰められ孤立した結果の死だという理解が必要」「誰が悪いのでもなく、どうにも防げない『自死』というものがあるのではないか」と主張した。また、「自死者の受容なしには自分自身とも向き合えない」と述べ、「なぜ自分自身と故人に誠実であろうとして生きていくことが妨げられ、難しくなるのだろうか」と訴えた。

「悲しみ、苦しみの共有を」

 40年間いのちの電話と日本自殺予防学会に関わってきた斎藤氏は、行政や企業の中にも自死に対する誤解や偏見が残っていると指摘し、「意識を変えていかなければならない」と強調。

 田中氏は、遺族が「知識がない」「何もできない」と思われることに対して、「精神疾患者に対する差別や偏見がそのまま遺族にも使われているのではないだろうか」と印象を語った。また、「国が遺族支援を対策として打ち出しているのであれば、国自らが襟を正して法の中にある差別や偏見を正してもらいたい」と遺族の立場から訴えた。

 浄土真宗本願寺派教学伝道研究センターの常任研究員である藤丸氏は、同派の寺院に対して行った自死問題に対する意識調査を紹介。約70%の僧侶が「自死はいのちを粗末にする行為だ」と思い、約74%が「自死は罪悪である」と認識していることを示した。

 一方で仏典の記述からは、「仏教で自死を宗教的な視点から罪悪と見ていくことはほぼない」と述べ、「自死についての実態(自死者が最期まで生きる意志を持っているという個別の状況)が十分に理解されていれば、このような認識は生まれてこないのではないか」と、矛盾の原因を探った。

 森氏は「あくまでもカトリックの信仰を持って生きてきたわたし個人の思い」と前置きした上で、自死の受け止め方について、「自らいのちを断つということは、決して否定的なことではなくて、もっと深い人生の悲しさ、弱さ、生きることのつらさなどを共有して育てていく切り口」になると主張。

 また、「神が親であり、人間にいのちを与えたならば、人間が生きている苦しみに対して、一番苦しんでいるのは神ではないか」と述べ、「裁きの神」という従来の神理解の転換を提言。「あの人の『苦しんでもがいた人生』は、わたしの人生の『宝』にもなる」とし、「人間が、いのちの深いところでつながっていく、連帯しているという神秘をもっとムーブメントとして展開していくべきだ」と主張した。

 平山氏は自死遺族の罪責感について、「原因は分からない」としつつ、自分自身を問うのではなく、自分が今の状況の中で何ができるかを考える発想の転換が必要だと主張。「悲しみの共有」「苦しみの分かち合い」を具体例として示した。

 会の最後には、「自死者の名誉回復宣言」=別項=と、自死遺族二次被害者保護法(仮称)制定に向けてのアピールがなされた。

 「自死者の名誉回復宣言」
 わたくしたちは、おのずから亡くなった人たちの人格の尊厳と名誉を守るために、「自殺」という言葉ではなく、「自死」という言葉を用い、次のように宣言します。
◎わたくしたちは、自死をいたずらに推奨し、美化したりは決していたしません。
◎わたくしたちは、自死者はいのちを大切にしなかったわけではなく、それぞれのかかえる問題でやむにやまれず、みずからの命を絶たざるをえない状況に追い込まれたのだと考えます。
◎わたくしたちは、自死者の人格を非難、中傷、攻撃するような社会的風潮やいわれなき偏見・差別に反対します。
◎わたくしたちは、自死者は繊細、純粋、心やさしく、死ぬまで精一杯努力し、まじめに生きてきた人たちであると思います。
◎わたくしたちは、自死者の思いに寄り添い、祈り、かれらの生きた日々を心に刻み続けます。

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