私立の個性輝く教育を 「建学の精神」再確認 東京でシンポ 2011年3月5日

 国学院大学教育開発推進機構(赤井益久機構長)は2月18日、同大学渋谷キャンパス学術メディアセンター(東京都渋谷区)を会場に「建学の精神の過去・現在・未来――私立大学の個性輝く教育とは」と題した教育開発シンポジウムを開催した。

 宗教系大学、非宗教系の大学の事例から、私立大学にとっての「建学の精神」に基づく教育の歩みをふり返り、その現代的意義や今後の教育の方向性を検討した。

 大学全入時代の現在、私立大学は日本の高等教育の中軸を担う存在としての社会的責任と、ユニバーサル化、少子化の時代における困難な経営のはざまで新たな方向性の模索を続けている。そうした中、大学自身のアイデンティティとしての「建学の精神」が見直されつつある。

 基調講演で、「私立大学の個性」について語った天野郁夫氏(東京大学名誉教授)は、教育社会学を専門とする。国立大学も動機や理念に基づいて創設されていること、「建学の精神」を意識的に再確認することは、「大学のあり方が問われている転換期」にいるためだと話した。

 続くシンポジウムでは、パネリストとして牧野富夫(日本大学常務理事・名誉教授)、池田魯參(駒澤大学仏教学部教授)、赤井益久(国学院大学教育開発推進機構長・文学部教授)、大橋容一郎(上智大学文学部教授)の各氏が報告した。

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 牧野氏は、大学設置基準大綱化後の大学改革の急速な展開のもと、建学の精神の必要が強調されているが、かえって大学の没個性化が進行しているのではないかと指摘。

 建学の精神や大学の理念について、「大学の旗印のようなもの。現代に合致するように再定義・修正する必要性も生じるだろう。教職員などの大学構成員個々が旗印を意識して日常の教育、研究、公務に励むような文化になれば、その旗印は十分に建学の精神や理念として実質化する」と結んだ。

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 池田氏は、駒沢大学における「行学一如」の建学の理念、「信誠敬愛」の実践綱目に対し強い批判論が近年起きたことを明らかにした。この二句は「仏教ではなく、陽明学の思想であり、当時の特殊な歴史的影響を受けて創られたものであるから、建学の理念にはふさわしくない」という理由だという。

 伝統的な二句の意味を再考した上で、「禅・仏教のあるべき姿に修正し、包括的に現代相応の建学の理念として方向付け、現今の曹洞宗が掲げる人権の尊重・平和の確立・環境の保全の課題を内外に表明することが望ましい」と語った。

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 神道精神に基づく国学院大学。赤井氏は、大学の母体である「皇典講究所」の創立(1882年)から発表を進めた。国学院大学が教育開発推進機構を設置したのは、09年4月。「従来、研究機関として認識されてきた大学が改めて教育機関であるとの認識を持ち、その力を高めていくことが求められている。新しい社会的需要に対応しうる教員の能力をどう開発するか、工夫と努力が問われている」と述べた。

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 大橋氏は、イエズス会が母体となった上智大学の沿革を紹介。同大では基本理念であるキリスト教ヒューマニズムに基づく人間教育を重視し、とりわけ「キリスト教人間学」は、全学部生に履修が義務付けられている。大橋氏によると、かつてはキリスト教入門を全員に課していたが、学生の反発が強く授業ができなくなった時期もあったという。「建学の精神は放っておけばなくなる。損をしてでも維持することが大事で、元を取るためにやるのではない」と主張した。

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