「君が代」斉唱不起立/再雇用拒否訴訟 「間接的制約」は合憲 最高裁 2011年6月11日

 公立学校の卒業式で「君が代」斉唱時に起立しなかったことを理由に、定年後の再雇用を取り消された元都立高校教諭の申谷雄二さん(64)が、都を相手に損害賠償などを求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷(須藤正彦裁判長)は5月30日、校長の職務命令は「思想・良心の自由」を保障した憲法19条に違反しないとの判断を示した。

 上告が棄却されたことで、申谷さんの敗訴が確定した。都が「君が代」の起立・斉唱を命じた03年の「10・23通達」に関する裁判で、最高裁が憲法判断を下したのは初めて。

 「君が代」斉唱で起立を命じることは思想・良心の自由を間接的に制約する――。最高裁小法廷は公立学校での職務命令を合憲とする一方、補足意見で「不利益処分を伴う強制が教育現場を疑心暗鬼とさせ、無用な混乱を生じさせれば、教育の生命が失われかねない」(須藤裁判長)、「国旗・国歌が強制的ではなく、自発的な敬愛の対象となるような環境を整えるべき」(千葉勝美裁判官)などと言及し、過度の「強制」にも警鐘を鳴らした。

 この裁判は、2004年3月の卒業式で「不起立」によって戒告処分を受けた申谷さんが、07年3月の退職を前に再雇用・再任用の採用を拒否されたことは「思想・良心の自由」の侵害であり、「裁量権の逸脱・濫用」に当たるとして、地位確認と損害賠償を求め提訴したもの。

 1審東京地裁判決(09年1月)は都の「裁量権逸脱・濫用」を認定して損害賠償の支払いを命じたものの、2審東京高裁判決(09年10月)は原告の請求をいずれも棄却し、1審を取り消す逆転判決を言い渡していた。

 判決は今回のケースについて、「教育上重要な儀式的行事で円滑な進行が必要」「法令が国歌を『君が代』と定める」「『全体の奉仕者』たる地方公務員は職務命令に従うべき地位にある」などの理由から、「間接的制約が許される必要性や合理性がある」と結論付けた。

 判決後の会見で申谷さんは、「起立をしないことで静かな抗議を示したかった」と振り返り、「教師は命令通り動くしかなく、無力感を感じている」と訴えた。

 式典での「日の丸」掲揚、「君が代」斉唱をめぐっては、教職員の起立・斉唱を義務づけた「10・23通達」に反発する教職員らの提訴が相次ぎ、東京だけで23件の同種訴訟が係争中。自らの信仰を理由に「起立できない」と主張するキリスト者も含め、原告の教職員は延べ700人余に上っている。

 東京「日の丸・君が代」処分取消訴訟原告団事務局長の近藤徹さんは、「憲法で保障されている個人の人権をどう守るかではなく、行政の行為をどう追認するかという立場に立つ奇妙な論理。憲法の番人としての役割を放棄した歴史に汚点残す判決」と厳しく非難した。

【判決要旨】

 公立高校の卒業式等で日の丸の掲揚と君が代の斉唱が広く行われていたことは周知の事実で、起立斉唱行為は一般的、客観的に、慣例上の儀礼的な所作としての性質を持つ。原告の歴史観や世界観を否定することと不可分に結び付くとはいえない。職務命令は、特定の思想を持つことを強制するものではなく、個人の思想及び良心の自由を直ちに制約するとは認められない。
 個人の歴史観や世界観には多種多様なものがあり得る。内心にとどまらず行動として表れ、社会一般の規範と抵触して制限を受けることがあるが、その制限が必要かつ合理的なものである場合は、間接的な制約も許容され得る。
 今回の職務命令は、原告の思想及び良心の自由について間接的な制約となる面がある。他方、卒業式や入学式という教育上、特に重要な節目となる儀式的行事では生徒等への配慮を含め、ふさわしい秩序を確保して式典の円滑な進行を図ることが必要。学校教育法は高校教育の目標として国家の現状と伝統について正しい理解を掲げ、学習指導要領も学校の儀式的行事の意義を踏まえて国旗国歌条項を定めている。
 地方公務員の地位や職務の公共性にかんがみ、公立高の教諭である原告は法令及び職務上の命令に従わなければならない。原告は、地方公務員法に基づき、学習指導要領に沿った式典の実施の指針を示した都教委の通達を踏まえて、校長から卒業式に関して今回の職務命令を受けた。
 以上の諸事情を踏まえると、今回の職務命令については、間接的な制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められる。原告の思想及び良心の自由を侵して憲法19条に違反するとは言えない。

 

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