フランシスコ会聖書研究所  分冊聖書37巻を1冊に合本 2011年9月17日

教会の書物として見直す
 フランシスコ会聖書研究所(小高毅所長)は、『聖書 原文校訂による口語訳(フランシスコ会聖書研究所訳注)』をサンパウロより刊行した。これは、同研究所が1958年から2002年までに分冊の形で刊行してきた旧・新約聖書全37巻を1冊に合本し、表記の統一や本文の校訂を行ったもの。分冊の刊行を終えた02年から合本化が企画され、研究所設立から55年目となる今年、ついに完成の時を迎えた。

全巻刊行までに46年
 同研究所は1956年、当時の駐日バチカン教皇庁大使マキシミリアン・ド・フルステンベルク大司教からの要請で開設された。当時、カトリックの日本語訳聖書としては、エミール・ラゲ神父(パリ外国宣教会)による文語訳聖書と、フェデリコ・バルバロ神父(サレジオ会)による口語訳新約聖書が存在していたが、どちらもラテン語のウルガタ訳を底本としたものであった。そこで同研究所は、「聖書全巻の原語からの批判的口語訳」を作ることを目的に、米国人のフランシスコ会士・ベルナルディン・シュナイダー氏(02年まで所長)が中心となり、翻訳作業を進めてきた。
 58年の『創世記』に始まり、62年に『マルコによる福音書』を刊行。78年に新約聖書全巻の翻訳を終え、翌年『新約聖書』(合本)を刊行した。02年の『エレミヤ書』を最後に、分冊での聖書全巻の刊行を完了。全37巻の刊行には、46年を費やした。翻訳に専念できるスタッフが少なく、同じメンバーが同時期に新共同訳聖書の翻訳に携わっていたことも、長期化の要因の一つであった。
 合本にあたっての課題は、46年間の聖書学の成果を反映させ、年代による用語の違いや、分冊の担当者ごとに異なっていた訳語や文体を統一していくことにあった。
 当初の3年間は、聖書の各書について、それぞれ専門家に翻訳の修正を任せる方針で進めてきた。しかし、全面改訂されたものもあれば、誤訳など必要最低限の修正だけにとどめられたものもあり、担当者ごとにばらばらで、合本にして統一することがより困難になった。そこで方針を転換し、分冊を基調にして、まずは文体の統一を課題とした。
 また、「原文校訂による口語訳」とうたっているように、底本をそのまま翻訳するのではなく、最新の研究成果を踏まえて比較検討することを目標としたが、「原文校訂」をどこまで生かすかが課題となった。最新の解釈であっても一般の読者にはなじみのないものもある。一方で底本に忠実な翻訳にすれば、他の翻訳との違いがなくなってしまう。他言語の聖書も参照しながら、大まかな目安を作り、研究成果の採用・不採用を決定していった。

文体を統一、注を充実
 全体の統一を図るためには分担作業ができず、同じスタッフが最初から最後まで通して何度も確認していく必要があった。小高氏をはじめ、プロの編集者である佐野美和子、同研究所理事の福田勤(フランシスコ会司祭)、サンパウロ編集部の鈴木信一(聖パウロ修道会司祭)の各氏が中心となって作業を進めた。佐野氏はキリスト者ではないが、自然な日本語表現を目指すため、編集者としての視点から協力した。
 07年の完成を目指して着手した合本化であったが、少人数での作業のため、予定を超過。注の整理など、突き詰めていくほど時間がかかるため、最終的に2010年のクリスマスを目安として作業を進めてきたが、編集過程でのトラブルもあって今年に延び、「聖母の被昇天」の日にあたる8月15日に刊行した。
 小高氏は02年から同研究所の所長を務めている。合本にあたって不自然のない日本語にするためには日本人が中心となるべきとの意見から、高齢のシュナイダー氏に代わり、その役割を引き継いだ。これまで翻訳に携わってきたスタッフも高齢化し、聖書の専門家が不足していた中での交代だった。
 教父学を専門とする同氏は、聖書学者とは異なる視点が加わったことが結果的によかったのではないかと自己分析する。「聖書は教会の中で読み継がれてきたもの。現代の聖書学・釈義学の立場で研究し、分冊になったものを、今度は教会の書物としてもう一度見直すことができた」
 「解釈の幅」を重視したという合本聖書。たとえば、パウロの「義」という言葉は、分冊聖書と『新約聖書』(合本)では「神との正しい関係」という訳語を使用してきたが、今回の合本で「義」に修正した。「一つの解釈として『神との正しい関係』を提示するのはよいが、『義』という言葉をそのまま生かす方が、解釈の可能性が開けてくる」
 新約聖書での大きな変更点は、「イエズス」を「イエス」に統一したこと。カトリック教会では典礼での朗読に新共同訳が使われており、「イエス」で読まれることが一般的だからだ。他の人名・地名の表記も基本的に新共同訳に準じた。また、旧・新約を通して受け身の敬語表現を避け、例えば「言われた」は「仰せになった」に統一した。
 同聖書の特徴の一つは、充実した「注」にある。小高氏によると、カトリックの聖書では注を付けることが世界的にも一般的だという。教会の伝統的な読み方を踏まえるために必要とされているからだ。合本にあたっては、分冊のすべての注を含めると膨大な量になってしまうため、取捨選択し簡略化を行った。当初は基準として、本文の5分の1の分量にまで減らす方針で進めてきたが、他の翻訳と異なる訳し方をした部分など、読者に必要な解説については、あらためて収録することを決めた。
 「読みやすいことと、学術的に高度なレベルを保って翻訳することは、両立させることが非常に難しい」と語る小高氏。「46年間の苦労に報いるためには1冊にしなければならないと思い、挫折しながらも進めてきた。これで一つの区切りができたのではないか」と振り返る。
 『聖書 原文校訂による口語訳(フランシスコ会聖書研究所訳注)』(サンパウロ)は8400円(12月31日まで特別価格7千円)で発売中。

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