富坂キリスト教センターが研究活動総括 〝天皇制は終わらない課題〟 2011年11月12日

 富坂キリスト教センター(岡田仁総主事)は、1982年より5期にわたって続けてきた「キリスト教と天皇制」研究を総括する目的で、10月23日、東京都文京区の同センターで共同討議を開催した(新教出版社との共催)。研究会の座長を務め、2008年に逝去した土肥昭夫氏(同志社大学名誉教授)を記念するレセプションも行われ、牧師・信徒ら約60人が参加した。

 片野真佐子(大阪商業大学教授)、原誠(同志社大学教授)の両氏が基調講演を行い、戒能信生氏(日基教団東駒形教会牧師)による司会のもと、上中栄(日本ホーリネス教団鵠沼教会牧師)、松岡正樹(日本バプテスト同盟杉並中通教会牧師)、鈴木正三(元富坂キリスト教センター総主事)の3氏が発題を行った。
 片野氏(第1、3、4期研究員)は、改憲論議の側面から天皇制の問題に迫り、「改憲論議は賛成派・反対派ともに、そのほとんどが憲法9条に極端に傾斜しており、『国家の主権者は誰か』という根源的な問いである第1条に関しては、蚊帳の外であると言ってよいと思われる」と指摘した。また、天皇皇后の被災者見舞いと被災地訪問について、その法的根拠を問い、若者に与える影響を危惧。「東日本大震災をきっかけに確実に天皇制と自衛隊と米軍が強化されている」とし、「今必要なのは、次世代を担う子どもたちのために人間の尊厳を守り、地上の人々が共存し、各個の生活を保障していく、国民国家の枠組みを超える新しい発想なのではないか」と語った。
 原氏(第5期研究員)は土肥氏の歩みを振り返り、その業績の一つである「天皇制とキリスト教」研究について、「先生の学問的対象としては、最も深層に触れるものであったのではないか」と語った。原氏は天皇制を「キリスト者としての最大の課題」と位置付け、「(天皇制は)日本の文化や習俗や宗教、農業、農村、共同体、法または憲法や民族、軍事、規範、倫理など全体を包括するいわばシンドロームのようなものではないか」と述べた上で、演繹法でなく帰納法によってその本質が見えてくると指摘。「天皇制の根底にはアニミズムを背景とした日本の文化や共同体があり、その上に天皇制が成立し、それが未整理のまま今日に至っている」との理解を示し、その中で、外からの教えであるキリスト教がどのように市民権を得ていくかが課題であると主張した。
 上中氏(第5期研究員)は、「福音が持っている絶対性を教派がそれぞれに明らかにすることができずに埋没していったのが十五年戦争期のキリスト教ではないか。そして、それぞれの教派性を捨てて合同したのが日本基督教団ではなかったか」と主張。また震災に関連して、「弱っている人、苦しんでいる人、悲しんでいる人は条件抜きに善人だという見方がキリスト教会の中にある」とし、「誰もが救われなければならない罪人であるという視点が抜けている。ヒューマニズムと混じっている」と指摘。「共に歩むことと、自分たちの独自性をどのようにキープしていくのかということが大事」と述べ、「日本社会の中で福音に生きることをどうするのかということは、『キリスト教と天皇制』を考えていく上では終わっていない課題」と語った。

神学的視点の欠如が問題
 松岡氏(第5期研究員)は、「戦前においてはキリスト教側が神学的に天皇制を考えたことはまずないだろう」と述べ、天皇制の実態を見極め、非難することができなかったと指摘。また、天皇が被災地を訪問し、頭を下げて黙祷を捧げた行為について、「神道の大祭司としての務めを果たしているのではないか」と語り、キリスト教と神道との対話の必要性を強調した。
 鈴木氏は、9月にドイツで出版した論文集『福音 現実 責任』(副題「ディートリッヒ・ボンヘッファーの神学 北森嘉蔵と滝沢克己における日本的神学と天皇制との折衝を通して」)を紹介。「象徴天皇制の中よりも靖国神社の形の中に戦前の天皇制の継続を見る」との主張を展開し、また「戦前から戦後の大教会と言われる人たちの指導者および神学者の傲慢さが少しも悔い改められていない」とも指摘した。さらに十戒の第一戒について、日基教団の戦争責任告白の中で言及されていないことを問題とし、「アジアの人たちの前に罪責を告白したが、唯一の神の前にキリスト者が戦時中神を神としないで天皇を拝んでいたということの告白が全然ない」と語った。
 司会の戒能氏は、90年の大嘗祭の時に、カトリック教会、福音派、日本キリスト教協議会(NCC)などが共同で問題に取り組んだことを振り返り、その際の結節点が信仰ではなく「政教分離原則」であったことを取り上げ、「クリスチャンがそこで一緒になる、そこで戦うというのはどうなのか」と、神学的視点が欠けていることを疑問視した。
 「キリスト教と天皇制」研究の成果は、『キリスト教と大嘗祭』(87年)、『天皇制の神学的批判』(90年)、『近代天皇制の形成とキリスト教』(96年)、『大正デモクラシー・天皇制・キリスト教』(01年)、『十五年戦争期の天皇制とキリスト教』(07年)として新教出版社より刊行されている。

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