「東京バッハ合唱団」創立50周年 日本語訳詞で「神に向かって歌う」 2011年11月12日

 バッハの合唱曲を日本語で上演しているアマチュア合唱団「東京バッハ合唱団」が2012年に創立50周年を迎える。これを記念して同合唱団は、バッハ4大合唱作品の日本語訳詞による連続演奏に挑戦する。12月3日の「ロ短調ミサ曲」を皮切りに、2014年まで3シーズンにわたって公演する。
 現在約60人の団員が在籍する同合唱団は、主宰者で指揮者の大村恵美子さんが1962年に創設した。当時、大村さんは東京芸術大学作曲科の学生で、フランス・ストラズブール大学およびストラズブール音楽院への留学を終えた直後であった。
 58年、アルベルト・シュヴァイツァー著『バッハ』の日本語訳を読んだことをきっかけに、教会カンタータの重要性を意識するようになったという大村さん。バッハ没後200年にあたる50年以降もカンタータの演奏が日本ではほとんど行われてこなかったことから、カンタータ作品を紹介することを念頭に置いて合唱団を組織した。また、教会で賛美歌が日本語で歌われているように、カンタータも日本語で歌いたいと、日本語での訳詞演奏を合唱団の原則とした。
 訳詞作業は、大村さん自らが留学中から続けている。ドイツ語の原詞をそのまま日本語に翻訳すると、膨大な量になってしまうため、歌詞全体の中で何が最も大切なエッセンスなのかを読み取り、解釈しながら日本語に置き換え、音節ごとに単語を取捨選択していく。原詞の3分の1ほどの分量にまで縮小しなければ、音節に合わせて歌うことは難しいという。
 大村さんの訳詞は文語表現が中心だ。「~した」「~である」などの言い回しを避けるための技術的な理由からだけでなく、日本語のリズムとして歌詞には文語表現が適しているのだという。当初は「文語訳はドイツ語と同じくらい分からない。それならばドイツ語で歌った方がよい」という反対の声もあった。「特に『躓き』『贖い』などのキリスト教用語は声楽家でも知らない人が多かった」と、大村さんは当時を振り返る。しかし、日本語で歌うことによって、「神に向かって歌う」「聴衆に対して語りかける」ことを意識することが大切だと、訳詞演奏を貫いてきた。
 「『われ信ず、神を』と歌う時、原詞であれば信じていようが信じていまいが、格好良く歌うことができる。ところが意味が分かれば、『本当だろうか』と自分に問いかけざるを得ない」と、同合唱団の事務局を担当している夫の健二さんも指摘する。
 大村さんは、バッハの教会カンタータ全192曲中62曲を「バッハ・カンタータ[日本語版]楽譜シリーズ」として2000年から刊行してきた。ドイツ楽譜出版の老舗ブライトコプフ社が、大村さんの理念を理解し、同社のヴォーカルスコアシリーズの底本利用を許可したことで実現したものだ。
 団員の1人である日基教団荻窪教会の小海基牧師は、「この合唱団では、日本語が届くように歌わされる。単に形式的に歌っているのではなく、その言葉が主体的に歌えなければいけないし、自己満足ではなく、聴衆にそれが響いていくことが求められる。母語で歌うことは重いこと」と語る。
 東京バッハ合唱団創立50周年企画Ⅰ「J・S・バッハ《ロ短調ミサ曲》日本語演奏初演」は、杉並公会堂(東京都杉並区)で12月3日(土)午後2時開演。前売3500円、当日4千円(全席自由)。2シーズン目(2012~13年、《マタイ受難曲》など)の合唱参加者も募集中。練習は月・土曜の週2回。月曜=午後6時半~8時半、日本聖公会目白聖公会(東京都新宿区)。土曜=午後3時半~5時半、日本同盟基督教団世田谷中央教会(東京都世田谷区)。練習参加および公演出場は、合唱団への入団が必要。問合せは、同合唱団事務局(℡03・3290・5731)まで。

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