グリーフケア・サポートプラザ10周年で講演 山形孝夫氏「祈りの中で死者に聞く」 2011年11月26日

 悲嘆(グリーフ)に苦しむ自死遺族の心のケアや支援活動を行う認定NPO法人グリーフケア・サポートプラザ(加藤勇三理事長)は、創立10周年を記念して、11月5日、宗教人類学者の山形孝夫氏(宮城学院女子大学元学長・名誉教授)を招き、「悲嘆からの再生」と題する講演会を星陵会館ホール(東京都千代田区)で開催した。同プラザ特別顧問の平山正実氏(聖学院大学大学院教授)が10年間を振り返って講演し、「追悼のとき」では、「アンサンブル・クレマチス」による演奏の中、自死遺族を含む約180人の参加者が死者を偲んだ。

母の自死防げず〝自責の念〟
 「死者と生者のラストサパー~幼い日の母の自死を生きて~」と題して講演した山形氏は、8歳の時に母親を自死で亡くした経験を回想。自分だけに「死にたい」と話した母親の言葉を父親や姉に伝えられず、自死を防げなかったことで「自責の念」を抱くようになったと打ち明けた。
 高校時代に聖書に触れ、「悲しむ人々は、幸いである」の言葉に出会い、キリスト教に入信したことを振り返り、「悲しみが人間を成熟させる。逆に言えば、悲しむような出来事に出会わないと、その人は残念ながら、『いのちの重大さ』や『いのちの尊厳』を通り過ぎていってしまう。そこがわたしにとってのキリスト教」と語った。
 そして、エジプトのワディ・ナトルンという場所にあるコプトの修道院を訪問したことを紹介し、家族の制止を振り切って修道士になることを「一種の自殺」と表現した。修道士たちは自由になるために家族から離れるが、本心では家族に会いたい気持ちを持ち続けているとして、修道士を死者と重ね、「(死者は)いつの日か、自分が振り切ってきた家族と会えると思っている。こちらで『会いたい』と思っても会えない。しかし『すまなかった』と死者に対して思っていると、死者たちも悲しみを抱えて『ごめんね』と思っている」と主張。
 「『死者の言葉を聞く』ことは重要。それがないと悲しみが罪悪感になってどうしようもなくなってしまう」と述べ、そこから抜け出す方法を考えることが、グリーフケアの目的だと語った。
 「悲しみから抜け出すためにはどうしたらよいか」との会場からの質問に対しては、「死者の記憶を深めていくと、死者が語り始めると思う。それは一種の祈りと言ってもよい。祈りの中で聞こえてくるものがある。それは錯覚と言えば錯覚だが、その錯覚がわたしたちを悲しみの本質に近寄らせる」と応答した。

「死者の立場に立って」平山正実氏
 同プラザの創設者である平山氏は、10年間の活動を振り返った上で、今後の課題として、「生の立場から死を見るのは無理がある。死の方から生を考えることが重要」と指摘した。また、生者の死者との向き合い方として「忘却」「記憶」の二つの方法を示し、矛盾する両者を「否定媒介的に」統合させることを提唱。「『自分』を別の次元に置いて、『死』や『死者』を見ていくことで、閉じた心が開かれた心に変わっていく可能性がないだろうか」「死はつらい経験だが、無限に飛躍する要素が隠されている」と主張した。
 最後に東日本大震災に言及し、「人を助けようとして亡くなった人々の死のありさまを生から見るのではなく、死者の立場に立って、何を学ぶことができるのか。あのような生き方が自分の中にできるかどうかを死者がわれわれに問うている。そのように思えた時、われわれのなすべきことは何かと問い始めた時、新しい出発が始まる」と結んだ。
 同プラザは、悲嘆の危機に直面している人々を応援し、ともに生きることを目指して、平山氏の呼びかけにより2001年に設立された。03年より自死遺族に焦点を当て、グリーフケアに関する相談・援助活動(相談電話、分かち合いの会)や情報提供、教育・研修事業、調査・研究事業を行っている。自死遺族に対する偏見・差別の是正にも取り組んでいる。

 13年連続で自死者の数が3万人を超える中、自死遺族を支援する活動が広がっている。代表的なものでは、平山氏が特別顧問を務める自死遺族ケア団体全国ネット(東京都港区)が、全国での自死遺族支援グループの発足を目指して、支援活動やスタッフ養成などに努めている。昨年発足したカトリック聖イグナチオ教会(東京都千代田区)の有志による「聖イグナチオいのちを守るプロジェクト」は、教会による自死者に対する差別や偏見があったことを反省し、「自死と向き合う教会」を掲げて、追悼ミサや自死遺族のつどいを開催している。
 また、上智大学グリーフケア研究所(兵庫県尼崎市)は、自死に限らず災害や事故などによる死別を経験した遺族のグリーフケアを目的に、悲嘆について学ぶ公開講座、人材養成講座を開催している。

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