2016年刊行の新改訳聖書 翻訳編集委員長・津村俊夫氏インタビュー 2012年6月23日

本格的「改訂」は日本初

 一般社団法人新日本聖書刊行会(竿代照夫代表理事)は、「新改訳聖書」の改訂による新しい翻訳聖書を2016年に刊行する計画で、現在準備を進めている。

 2010年から始まった改訂作業は2年目を迎え、4月に開かれた第4回翻訳編集委員会の時点では、新約聖書の第一次改訂案がほぼ提出された。旧・新約を通した聖書の改訂作業としては「日本初」だという同聖書。改訂の特徴について翻訳編集委員長の津村俊夫氏(聖書神学舎教師)=写真=に話を聞いた。

――今回、新しい翻訳ではなく、「改訂」としたのはなぜですか。

 「新改訳聖書」の第一版は1970年に出版されました。50年が経過し、その間の日本語の変化と学問の進展を踏まえた大改訂が必要だと判断しました。

 これまでも、第二版(87年)で若干の訂正を、第三版(2003年)で差別語・不快語の見直しを中心とした小改訂を行ってきました。第三版で改訂を行う以前から、差別語・不快語については数年かけて改訂の準備をしてきましたが、96年のらい予防法廃止を機に、そのまま温存しておくことはできないと判断し、「らい」を「ツァラアト」にするなど、緊急課題として計900カ所の改訂を行いました。しかしこれらの改訂は、全体から見ると小さな改訂と言えます。

 新改訳の第一版は、コンピュータを使わずに手作業で行った最後の聖書翻訳だと思います。これまでに残されている手書きの資料はすべてデータ化し、それらを生かしながら現在改訂作業を進めています。

 新しい翻訳を作る方が、翻訳者にとっては自由があると思います。一方で改訂には、先輩の良いものを残すという面があります。「なぜ先輩はこのように訳したのか」と考えていくと、試行錯誤の末に工夫して訳したことが分かってきます。

 聖書翻訳とは、翻訳原則を変えない限りは「改訂」だと思っています。口語訳と新共同訳の理念は違いますので、この場合は改訂ではなく新しい訳です。口語訳は文語訳を踏襲していません。文語訳は大正訳で改訂が行われましたが新約だけです。そのような面で、今回の新改訳の大改訂は、おそらく日本で初めての本格的な「改訂」作業だと思います。

 常任編集委員会には第一版に関わった松本任弘氏もアドバイザーとして参加しています。第三版に関わった60代のメンバーを含め、40代から70代のメンバーが関わっていますが、人的な連続性がないと改訂はできません。徒弟制度的に次の世代を育てていくという意味があります。

――改訂作業ではどのような点に重点を置いていますか。

 福音主義にもいろいろな立場がありますが、基本的には聖書の権威を大事にするということにおいて共通しています。神学的な議論をするのではなく、また決して妥協するのでもなく、聖書のヘブル語・ギリシャ語が翻訳されるとしたら何が言語的に順当な翻訳であるかという「言葉」を大事にして、聖書において一致し、聖書の権威を大事にしていく福音主義に立っているという点は大切だと思います。

 一番の問題は、新約における旧約引用の問題です。旧約に比べて新約は学者の数が多く、テキストの分量が少ないため、先に出来上がるので、旧約が完成するまで待っていなければいけません。その点でわたしたちは前段階として第三版がすでにありますので、そこから検討を始められます。

――読者からの意見を反映させることはあるのでしょうか。

 これまでに数多くの意見が寄せられています。「第三版のこの訳はおかしい」など具体的な意見もあり、普段から読んでいるからこそ不備なところが分かるのだと思います。特に原文を理解できる人からの意見は貴重です。すべてファイルしており、次のステップで検討していきます。これは「改訂」の強みだと思います。

 普通なら最後の段階でやるべき日本語の問題や脚注などについて、今の段階から前倒しで取り組めることも、改訂であることの利点です。

 新改訳の特徴の一つでもある脚注については、増補するよりも、現在のものを改善することを目指しています。手作業のために見落としていた部分や、訳の統一が取れていなかった部分があり、これまでも牧師や神学生から不備を指摘されてきました。

言葉の大切さ意識する機会に

――改訂版の特徴とは?

 新改訳の特徴である「です・ます」調の文体は維持しつつ、物語や詩、ことわざ、手紙など文学ジャンルが異なる場合には、それぞれにふさわしい日本語の文体を採用しなければいけないと思います。

 礼拝に用いられることを第一の目的としていますので、これまで新改訳を読んできた人が違和感なく読めるように、また、新しい読者にも門戸を開いて、キリスト者ではない人にも読んでいただけるような、普遍性を持った訳にしていければと願っています。

――翻訳改訂に携わっている各委員会について教えてください。

 翻訳編集委員会は次のメンバーで構成されています。旧約担当はわたしの他に、木内伸嘉(主任)、松本任弘、鞭木由行、南場良文、千代崎備道、鎌野直人、ランドル・ショートの各氏。新約担当は内田和彦(主任)、山中雄一郎、滝浦滋、伊藤明生、三浦譲、遠藤勝信、岩上敬人の各氏。日本語担当は松本曜氏です。

 同委員会は補助のメンバーも参加して、年に1~2回開催しており、秋に5回目を予定しています。月例で常任編集委員会(常任編集委員5人+補助)も行っています。他に、翻訳改訂委員会(40人)があり、日本語の作業部会(6人)では、新改訳を使用している詩人や言語学者などに加わっていただいています。

 また、外側には評価委員がおり、出来上がった翻訳に対して意見を言っていただくことになります。1年以内にサンプルのような形で部分的な訳を作成し、評価委員たちの評価を得る予定です。

――2016年には日本聖書協会からも新たな翻訳聖書が刊行される予定です。

 現在、日本聖書協会から話し合いがあり、固有名詞をどのように訳すかを相談しています。人名、地名、書名などの固有名詞が聖書によってバラバラでは読者も戸惑います。例えば、「ファラオ」と「パロ」、「エフェソ」と「エペソ」などについて検討課題としています。

 固有名詞について新改訳は、文語訳、口語訳の伝統を比較的受け継いでいます。この流れを大事にしつつ、新共同訳で変わった面も考慮しながら、歩み寄れるところは歩み寄っていきたいと思います。今後も日本聖書協会との話し合いを続けていく予定で、わたしは8月の翻訳者会議に招かれています。

 日本聖書協会の翻訳と新改訳は同じ本文に基づいていますが、翻訳理念が異なります。例えば、新共同訳で「神に従う人」と訳している言葉を、新改訳第三版では「正しい者」と訳しています。
 互いにエールを送りながらも、違った特徴を出し、日本語として良い訳を出していければと思います。

――2016年に向けて意気込みをお願いします。

 改訂作業を始めると、あと10~20年は必要だと思ってしまいます。ベストは尽くしますが、これで完璧な改訂ができるとは思っていません。次の世代にバトンタッチしていくことが大切です。聖書翻訳とは、売れなくなったら新しい製品を出すとか、モデルチェンジするというものではありません。気の長い改訂の積み上げがないとできません。 

 言葉を読んで理解するということが弱い時代だからこそ聖書が大事だと思います。聖書の翻訳が複数あるということは、教会にとっては非常に幸いな時です。言葉の大切さを教会が意識できるというのは、神さまが与えてくださった大切な機会ではないかと思います。

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