宗教社会学者ロバート・N・ベラー氏講演 市民社会と市民宗教の可能性探る 2012年10月27日

 宗教社会学者のロバート・N・ベラー氏(米カリフォルニア大学バークレー校名誉教授=写真)が、「日本聖公会ウィリアムズ主教記念講座」の講師として、9月29日~10月7日の間に計5回の講演を行った。立教大学(東京都豊島区)、同大学社会学部、ウィリアムズ主教記念基金が主催したもので、同大学の他、日本聖公会聖アンデレ教会(東京都港区)、同市川聖マリヤ教会(千葉県市川市)を会場に開催された。

「日本は指導力発揮していない」

 同基金は、1859年に米国聖公会最初の宣教師として来日し、立教学院などの設立に尽力したチャニング・ムーア・ウィリアムズ主教を記念して、海外からの講師の招聘や発展途上国からの研修員の支援を目的に、日本聖公会と聖公会関係学校の協働プロジェクトとして1977年に設立された。13回目となる今回の講座は、立教大学の卒業生で、カリフォルニア大学でベラー氏に師事した佐藤秀夫氏の尽力により実現した。

 立教大学では2回の講演会とシンポジウムが行われた。9月29日の1回目の講演会でベラー氏は、「グローバルな市民社会と市民宗教の可能性」と題し、グローバル化する社会の中で「市民社会」はいかに可能であり、「市民宗教」の果たす役割は何かについて講演。10月2日の第2回「人類進化における宗教をめぐって」では、宇宙誕生から始まり、プラトンについて論じながら、新著『人類進化における宗教』(みすず書房から邦訳刊行予定)を紹介した。

 これらの講演を受けて、6日のシンポジウム「グローバル時代における宗教と市民社会――日本とアメリカの対話」では、立教大学社会学部教授の生井英考氏と奥村隆氏の司会のもと、パネリストとして古矢旬(北海商科大学教授)、大澤真幸(社会学者、元京都大学教授)、ミラ・ゾンターク(立教大学文学部准教授)の3氏が参加し、ベラー氏と対話。180人収容の会場が参加者で満席となった。

 ベラー氏は、世界が直面する問題の中で最も深刻なものとして、環境問題を指摘。日本について、医療制度が世界第一位であること、寿命が世界で最も長いこと、乳幼児死亡率が世界で一番低いことなどを示し、「日本は圧倒的に優れている」と述べた。その一方で、「世界の中で主要国として指導力を発揮していない」と指摘し、社会は物質的な業績によって計られるものではないとした。

 また、米国の大統領選で「アメリカンドリーム=より金持ちになること」という言葉が繰り返されていることに言及し、「これが人生の目的だろうか」と問いかけ、持続的な成長が必要であり、成長したならばその帰結を制御できることが必要であると述べた。

          

 古矢氏は、第二次世界大戦における敗戦と東日本大震災の二つが日本の最も普遍的な経験だと述べ、「二つの破局から日本が立ち直るにあたって、ある種の日本的な市民宗教がプラスの機能を果たしてきたことは間違いないだろうと思う」と主張。これらの経験について、「非常に普遍的な意味合いを世界的・文明史的に持っていることは間違いないが、それを外に向けて発信する用意がまったくない」と述べた。

 大澤氏は、「環境問題に代表される現代の主な社会的な問題は、今までわれわれが培ってきたアイデアでは乗り越えられない問題を含んでいる」として「未来の他者」との連帯を強調。これは宗教の問題だとし、「市民宗教によって『未来の他者』『未来の世代』との連帯が築き上げられるだろうか」と問うた。その上で、「『未来の他者』の問題が現実味を帯びた重要な要素として市民宗教の中に入ってくるのかどうか疑問」とする意見を述べた。

 ゾンターク氏は、ベラー氏の新著に基づき、イデオロギー的な負の遺産とされてきた日本の「宗教的情操」という概念についてベラー氏の意見を問い、「これは、理論よりも感情を基盤とする倫理的応答を優先する概念として、普遍的な人類の倫理の基礎になり得るのか。あるいは世界的な市民宗教のもとになり得るのか」と質問した。「人類進化の中の宗教というアプローチをもって、『宗教的情操』の再評価ができるのではないか。日本だけでなく世界全体が直面している問題解決のためにこれは役立つヒントをくれているのではないか」とコメントした。

 

「富に執着すれば不平等が増加」

 10月7日、市川聖マリヤ教会では同教会司祭・竹内一也氏の通訳で、「エコロジカルな破局――教会と世界はどのように応えることができるのか」と題する講演が行われた。ベラー氏は、人類が現在、絶滅のただなかにいると主張。急激な人口増加が、土壌の浸食、水の供給不足、海洋汚染、地球温暖化を引き起こしているとし、これはグローバルな問題だと指摘。ドイツの社会哲学者ユルゲン・ハーバーマスを取り上げ、「義務的な世界市民(コスモポリタン)的連帯」の必要性を説いた。

 その上で、「わたしたちが人々に示さなければならないことは、人生の目標として富を得ることに執着すればするほど、収入の不平等が増加し、どうすることもできなくて取り残された人々の間の悲惨さの度合いが大きくなるということ」と主張。民族間の友情と協力が必要だと述べ、「キリスト者たちは、み子イエス・キリストにおいて啓示された神に目を向ける。そして、キリストは、わたしたちに、世界を越えたところに利己的な目的のための手段ではなく、それ自体真にして善なるものを見ることによって世界をいやすようにと呼びかけている」と訴えた。
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 ベラー氏は、1927年、米オクラホマ州生まれ。日本の近代化の文化的基盤を論じた『徳川時代の宗教』(岩波文庫、1996年)、米国の個人主義と宗教の変容を描いた共著『心の習慣――アメリカ個人主義のゆくえ』(みすず書房、1991年)などの業績で知られる。現在85歳。昨年には70歳から83歳までの13年間の研究成果である『人類進化における宗教』を刊行し、宗教の文化的起源と生物学的起源を統合的に把握する試みを行った。

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