人間の権利「移動」を問う 映画『海と大陸』エマヌエーレ・コリアレーゼ監督インタビュー 2013年4月13日

 南イタリアの地中海に浮かぶ小さな離島を舞台に、漁師として細々と暮らす家族と、アフリカから押し寄せる難民、そして子どもの未来を案じる母の姿を世界的な時代の変化と共に重層的に描いた『海と大陸』(岩波ホールで公開中。 ほか全国順次)。

 監督は、シチリアにルーツをもつエマヌエーレ・クリアレーゼ氏(48)。昨年10月、東京国際映画祭の審査員として来日したのを機に話を聞いた。

――地中海の離島にアフリカの難民漂着主題だ。

 難民や移民問題については、新たにまだ語るべきことがある。脚本を書いているときに現地の漁師たちがたくさんの船を海底で見つけて引き揚げたことがあった。ヨーロッパでは公的に、地中海を渡ってこようとして落命した人の数を、1000とか3000とか言ってはいるが、現地の実際のカウントでは、少なくとも10万人は亡くなっている。これについてはさらに描けるんじゃないかと思った。

――06年にも移民問題を描いた映画(米国への移民問題を描いた「新世界」)をつくっている。

 移民問題というよりも、その人生の中で「人が移動する」「移動せざるを得ない」ということに興味があった。歴史的には人は常に移動して生きてきた。

 昔は、国として都市をつくっていくときに労力が必要になって移民が入ってくるケースが多かった。しかし今は都市が既に出来上がっているから、労働力としての移民は必要がなくなった。そうすると移民である彼らを問題視し、受け入れることをいきなりやめてしまう、国境を閉じてしまうことが、いま難民が問題化している理由だ。

 人間は誰もが等しく動く、移動する権利を有する。動くことは新しい文化を知ることでもあり、人間にとっては当然の権利である。

――イタリアの世論では、そうした問題に対する関心はどうか。

 説明が難しい状況だ。イタリアは前世紀において、自国から海外へ2番目に多く移民を出した。

 人間は精神学的に、嫌なことはなかったことにするメカニズムを持ち合わせている。移民についてもそのような思考の人が多い。(イタリアは)歴史がある国だから、皮肉にもどの家庭にも1人は外国に住んでいる親戚がいる。しかし自分の家族内に移民がいながらも、自国に難民が来ることついては、ネガティブになったりする。

 もう一つはテレビのプロパガンダを通して誤った情報を信じている人が多い。右派政権のときに国の安全を第一に打ち出したが、「(移民が)あなたたちの仕事を奪いにやってくる」と誤った情報を発信したために、移民に対する恐怖レベルが高まった。今もなお誤解している人が多い。

――生まれた島を離れたことのない20歳の青年の目を通して描きたいと熱望されていた。

 意図としてはナイーブでまっさらで偏見がない青年を主人公として求めた。主人公がさまざまな情報を与えられることによって、その考え方にどのような進化があって、行動に出るのかを見せたいという思いもあった。 

 主人公フィリッポの場合は、おじいさん、お母さん、伯父さん、国からそれぞれに違う見方・情報を与えられて、結果的には混乱してしまう。

――作品の冒頭、船のなかの舵をきる場所にマリア像が設置され、また海中にはロザリオをかけたマリア像も……。

 マリアさまは、海に生きる人々にとって唯一の聖なる母だ。海の人々の守り手であるという公的な位置づけだ。だから船の中にも飾る。

 イタリア南部の島では、マリアさまやイエスさまの像を海に沈める。亡くなって帰ってこなくなった漁師を見守ってくださいという思いと、大漁祈願、両方の思いが込められている。

――あなたの信仰は?

 幼少の頃から16歳まで、カトリックの学校にいた。おそらくそのことが原因で教会を信じなくなった。ただ、神の存在は信じる。それぞれの人に神は宿っている。その神の声を自分で聞けるかどうかの問題である。いま改めてわたしが何を信じているのかを問われれば、教会でも神父でもなく、神であるということ。具体的に言うと、キリストの教えは信じているが、バチカンを信じていない。商業主義的行為に走っているバチカンは信用できない。

――主人公の青年とその祖父は、難民の女性を助け、家に迎え入れる。しかし政府の役人から見れば、彼らはただの不法移民で、青年たちにも災難が……。

 善行は時間がかかるがいつかは本人のもとに戻ってくるものだ。しかしここでは、矛盾として描かれている。良い意図をもって行った好意が罰せられる。ここで言おうとしているのは、人のつくった法よりも大切なものがあるということだ。何が一番人間的なのか、考えてもらいたいから描いた。

©2011CATTLEYA SRL・BABE FILMS SAS・FRANCE2CINEMA

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