シリーズ「憲法改正と私たちの課題」③ 2013年7月6日

 西川重則氏(政教分離の侵害を監視する全国会議「政教分離の会」事務局長、靖国神社国営化反対福音主義キリスト者の集い代表)による「憲法改正と私たちの課題」シリーズは今回で終了します。憲法改正の問題の本質はどこにあるのか。今後も関連記事を掲載します。

安倍内閣に民主主義の本質を問う

 安倍内閣について考える場合、私たち自身の視点に立って検証することが求められていると言えようか。つまりどういう立場から安倍内閣の問題点について批判すべきかということである。そこで私は改めて私たちが日本国憲法についてどのように考えているのか、憲法の原点に立ってどれだけ真剣に安倍内閣に対する私たちの責任課題は何なのかということである。私たちにもありうる無責任な発言、姿勢を問わずに安倍内閣を批判することがないよう留意したいものである。

 以上のような点から具体的に私自身が理解している日本国憲法の一大特徴、今後の課題とは何かについて述べたい。

 日本国憲法の「前文」に明記されている通り、主権在民の立場に留意し、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し」とあるが、ともすればこの歴史的文言の意味を忘れがちである。

 したがって、右の「前文」を本文の第九条「戦争の放棄」の第一項「不戦の決意」、第二項の「戦力の不保持」の歴史的意味をともすれば不十分な解釈のまま見過ごしていないかどうか、今こそ改めて真剣に深く留意し、改悪を許さない決意を、国家権力に対して表明すべきではないか。もう一度強調しよう。憲法の「前文」すなわち憲法の本文の原則・解釈・適用の源流である「前文」の歴史的意味を夢忘れることがないように深く心に留めて欲しいと言うことである。

 改めて言うまでもないことだが、現状は「前文」の強調点が忘れられており、安倍首相の間違った発言、政治姿勢に対して日本国憲法の原点、源流から指摘することがほとんど見られない発言や行動が多いことを私は率直に残念に思い、憂いを抱かざるを得ない昨今である。

 日本国憲法が施行された直後に発行された当時の文部省発行による中学一年生のための『あたらしい憲法のはなし』に次のような心すべき言葉が見られる。

 「前文にある考えと、ちがったふうに考えてはならないということ」。「もう一つのはたらきは、これからさき、この憲法をかえるときに、この前文に記された考え方と、ちがうようなかえかたをしてはならないということ」。

 日本国憲法が公布・施行された直後の中学一年生のための憲法の教科書『あたらしい憲法のはなし』の中の最も重要な注意が、以上の二つであり、今こそ国家権力の立場にある首相・閣僚によって留意すべきことが公然と無視され、日本国憲法の改正(改悪)が進められている。この驚くべき現状を直視し、どうあるべきかを私は率直に直言したい。自民党が決定した「日本国憲法改正草案」(2012・4・27)の「前文」と本文の第一章に、天皇について何と書いてあるのかを直接確認して欲しいものである。

 「前文」の最初の文言に「日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家」と書かれ、それを裏づけるかのように、本文の第一章 天皇の第一条に「天皇は、日本国の元首」と明記されている。

 今の中学一年生が学校で、この文言を読まされ、教えられたら、どう反応するだろうか。天皇を中心とする歴史・伝統・文化を教えられ、天皇の存在の意味を強調されれば、何の疑いもなくその意味を認めるかも知れない。

 敗戦後の憲法学者が天皇を「元首」とするのは問題だと発言したことがあるのを知っているが、当然の発言である。「天皇は、単なる象徴であってなんらの政治的権力をも持たない」と書いている「民主主義 下」は、1949年8月26日の文部省の発行である。

 ともあれ、自民党の「改正草案」の決定過程を知っている私にとって、「憲法改正」を誰が推進しているのかと聞かれてもそんなに難しいことではない。最高の実力者、最高の顧問の名前を知れば十分である。麻生太郎、安倍晋三などの名前が書かれているのであり、現首相安倍晋三が「憲法改正推進本部」のひとりとして登場していることは重大であることはここで指摘しておきたい。

 日本国憲法の「前文」の一大特徴は、まさに佐藤功憲法学教授が明言された通り、民主主義の本質と差別構造の天皇制とは矛盾しているのであり、主権者・有権者が民主主義の本質に自覚的になれば、憲法改正の最初に天皇制の問題が取り上げられるのはむしろ自明のこと、日本国憲法の「主権在民」の重要な位置づけから天皇のことが一切触れられていないのは理論面から当然であると言えよう。

 逆に、自民党の「改正草案」の「前文」、第一章 第一条に天皇のことを改めて明記した理由も明白と言わねばならない。重大な安倍内閣に直面している私たちの責任課題は何なのか。民主主義の本質について真剣に学び、発言すべき責任を述べて第3回を終わりたい。(にしかわ・しげのり)

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