今日、ボンヘッファーから学ぶ 日本初の国際学会、東京と関西で 2013年11月2日

特別講演クリスティアーネ・ティーツ氏
〝地上の生をキリストのように〟

 ドイツの神学者ディートリッヒ・ボンヘッファーの生涯と思想を学び合う「東アジア・ボンヘッファー学会2013」が10月11日~15日、東京と関西で開催された。ボンヘッファーについての国際学会が日本で開催されるのは初めてのこと。11・12日にはルーテル学院大学(東京都三鷹市)で全体協議会が行われ、初日は69人、2日目は46人が出席した。

 「今日ボンヘッファーの宗教批判から学ぶ」と題して、クリスティアーネ・ティーツ氏(国際ボンヘッファー学会ドイツ語部会長、スイス・チューリッヒ大学教授)が特別講演を行った。同氏は、ボンヘッファーの「無宗教的キリスト教」への要請に着目。「宗教は生き長らえてきた」というボンヘッファーの考察を取り上げ、「宗教とキリスト教信仰は相容れない」というテーゼをたどり、ボンヘッファーの宗教批判を学ぶことの今日的意義に言及した。

 同氏はボンヘッファーにとって宗教とは、形而上学、内面性、個人主義、部分性という四つによって特徴づけられるとし、「宗教がその居場所を持つのは、外面的な認識と行為の限界や人間の内面的な弱さ、生の終わりにおいて」であり、「人間の生の全体に関わることは決してない」と解説。ボンヘッファーが獄中書簡で言うところによれば、宗教は、キリスト教信仰において大切なものを歪めてしまうため、「キリスト者によって克服されねばならない」。

 「無力な、苦しむ、神に置き去りにされた十字架上の神」は、形而上学的な神のイメージとは矛盾するが、神自身がそのような経験をすることで、「それ以後は、完全に神に置き去りにされた状態というものは存在しない」。そして「人間はいわゆる外から世界に介入する神を頼みにしてはならず、むしろ自立的に自らの人生に対処せねばならない」ことに気づかされるのだとした。

 人間は形而上学的な神なしに生きていかねばならないが、イエス・キリストの神とともに生きることが許されているのであり、キリスト者は地上の困難から永遠のものへと逃避することを許されず、「地上における生をキリストのように味わいつくさねばならない」のだと解説した。

 「ボンヘッファーの宗教批判はキリスト教信仰のためになされたものであり、今日もなお現実性を持っている」と述べたティーツ氏。「ボンヘッファー自身による無宗教的キリスト教の素描は、決して神の存在の否定や彼岸の破棄を意味するものではない」とし、「宗教批判もまた同様に、キリスト教信仰の観点から批判されねばならないと主張している」と語った。

中国、韓国、香港、台湾、日本からも発題

 他に中国から劉茵雅(リュー・インヤ)(アイルランド国立大学研究員)、韓国から柳錫成(ユ・スクスン)(ソウル神学大学総長、韓国ボンヘッファー学会代表)、香港からジェイソン・ラム(林子淳=漢語基督教文化研究所研究員)、日本から山﨑和明(四国学院大学教授)の各氏が参加・発題した。発題を予定していた韓国の朴聖?(パク・ソンジュン)(キルダム書院院長)と、台湾の王貞文(ワン・イェンエン)(台南神学院講師)の両氏は病気のため欠席し、王氏の発題は代読された。

 開会礼拝で説教した江藤直純氏(ルーテル学院大学教授、日本ルーテル神学校校長)は、ボンヘッファーについて、「『今日、わたしたちにとってイエス・キリストとは誰か』といのちがけで問い、神学的、信仰的に、かつ歴史に参与することを通して実存的に答えを捜し求めた」と解説。その著書を読み、研究活動を重ねてきたことは、「今日、わたしたちにとってイエス・キリストとは誰か」を問うための営みであり、「キリストに語りかけられているわたしたち自身を発見するための営み」であると強調した。

 共催団体を代表してあいさつした鈴木正三氏(日本ボンヘッファー研究会代表)は、「中国、韓国、日本、香港、台湾の国々がドイツの教会とともにこのような学術会議を開くことができるということは、準備する段階においてすでにエキュメニカルな交流が行われていた」と語った。

 同学会の関西の部として14日には同志社大学リトリートセンター(滋賀県大津市)でシンポジウムが行われた。ティーツ氏を除いた各国代表が発題し、11・12日の発題や議論をもとに協議、意見交換を行った。ティーツ氏は、13日に日本キリスト教会大阪北教会(大阪市北区)、15日に同志社大学クラークチャペル(京都府上京区)で講演を行った。

 同学会は、日本ボンヘッファー研究会、韓国ボンヘッファー学会、関西バルト・ボンヘッファー研究会、ルーテル学院大学、同志社大学神学部、公益財団法人基督教イースト・エイジャ・ミッションの共催で行われた。

【メモ】
 ディートリッヒ・ボンヘッファー(1906~1945)=ドイツの古プロイセン合同福音主義教会の牧師。第二次世界大戦中にヒトラー暗殺計画に加担。43年に別件で逮捕され、刑務所でも著述を続けた。45年4月、フロッセンビュルク強制収容所で処刑された。

         

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