精神障がい者の〝タラント〟生かし社会に周知を 共同作業所「ホサナショップ」のビジョン 2014年3月22日

 東京都練馬区の桜台に、精神障がいを持った人たちの共同作業所「ホサナショップ」(泉田昭理事長)がある。4月で21年目を迎える同所では、利用者たちが特技や能力を生かして、ジャムやクッキーなどのオリジナル商品を開発・製造・販売している。また、衣料品の販売や清掃活動、個別学習指導やバンド演奏に至るまで、幅広い活動を行っている。所長の小島敏さんと、主任の小池文彦さんは、「福祉」の枠にとらわれない事業展開を目指している。

 ホサナショップは就労継続支援B型の事業所。常勤職員は、小島さん(日本バプテスト教会連合練馬バプテスト教会会員)、小池さん(日本福音ルーテルむさしの教会会員)、生活支援員の宮﨑彩子さんの3人で、他に非常勤職員が3人いる。現在46人の登録者がおり、月~金曜日の午前9時半~午後3時半、およそ23人の通所者が作業を行っている。保健所、病院やソーシャルワーカー、教会からの紹介で入所する人がほとんどだ。

 設立のきっかけは、精神障がいの息子を持つIさんが、所属する練馬バプテスト教会の泉田昭牧師(現・同教会名誉牧師)に、「精神障がい者のためのキリスト教主義の作業所を作りたい」と相談し、運営委員長として名前を貸してほしいと依頼したことだった。1993年4月の開所を目指していたIさんはその年の2月に亡くなり、泉田牧師が名実ともに運営委員長として4月に開所。03年から理事長を務めている。

 泉田牧師の呼びかけで、日本神の教会連盟、日本同盟基督教団、フェローシップ・ディコンリー福音教団、基督聖協団などの練馬区近隣7教会が協力教会として運営委員会に加わった。

 開所した93年は、「精神保健法」が改正された年でもある。それまで「病者」であった精神障がい者が、福祉の対象となった。これを機に政策転換が図られ、医療機関に入院する必要のない精神障がい者が、医療施設の外で生活することが推進されるようになった。

 当初ホサナショップは社会福祉事業の扱いではなく、「法外施設」として東京都と練馬区から補助金を受けながら運営していた。開設時職員の中には精神保健福祉の専門家がおらず、精神科医の故・平山正実さんに助言を求めながら、試行錯誤を重ねてきた。03年にNPO法人、08年に第2種社会福祉事業となった。

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 現在同所で製造・販売しているオリジナル商品は、焼き肉のたれやラー油、パウンドケーキやクッキーなど、およそ20種類。協力教会の会員が商品のアイデアを出すこともある。

 「職員が利用者さんを指導することはあまりなく、利用者さん同士でチームを組んで行う仕事が多いです」と小島さんは話す。最近では中学生の個別学習指導も始めたという。「国立大学出身の理系の利用者さんが、私立の中学生に数学を教えています。同じような仕事をできそうな人が何人かいるので、今後、個別指導は拡大していくと思います」。また、利用者同士でバンドを結成し、老人ホームや公民館で演奏も行っている。

 老人ホームでの訪問販売も活動の一つだ。月に1回ずつ、計6施設に訪問している。「地方にあるケアホームだと、入居者さんは遠方まで買い物に行かなければなりません。わたしたちが訪問して衣料品やお菓子、食料品などを部屋まで運んでいきます」。入居者のリクエストにも応じ、希望の商品を仕入れていく。

 中でも衣料品は、「安い衣料品店の半額くらい」で販売できるという。アパレルメーカーの在庫の余りや、流行が過ぎた衣料品を問屋から安く仕入れるルートを確保しているからだ。この「ルート開拓」が、職員の重要な仕事の一つでもある。

 こうした活動によって、利用者の生活リズムが安定し、持っている力を発揮することで、症状が好転していくという。

「利用者の関わるところはどこでも」

 同所にはあらゆる精神疾患の人がいるが、中心は統合失調症だ。統合失調症には主に、幻聴や妄想などが表れる陽性症状と、気力や集中力がなくなる陰性症状がある。病院では薬物療法が中心だが、陰性症状については活動の場がないと改善しないという。

 「作業をすることで、持っている力を発揮する。他人と関わる。職員との相談や対話の中で自分の状況を理解し、最終的には自分で問題を解決するための決断を出す。そのような支援をしています」と小島さんは語る。

(左から)小池さん、宮﨑さん、小島さん

 もともと外資系の銀行に勤めていた小島さん。福祉の仕事をしたいと一念発起し、泉田牧師から同所を紹介され、社会福祉士と精神保健福祉士の資格を取得した。勤続12年になる。

 同じく社会福祉士と精神保健福祉士の資格を持つ小池さんは、ルーテル学院大学で「キリスト教とカウンセリング」を学んできた。カウンセリングだけでは分からない人間の生活の深い部分を知りたいと、卒業後に専門学校に進学し、「カウンセリングを基盤とした福祉」をテーマに学びを深めた。9年目となる同所での働きについて、「世の中の〝隙間産業〟のようなものを狙っていきたい。かゆい所に手が届くような事業展開を図っていきたい。福祉という分野・業界に限らず、さらに進化した総合商社的なビジョンを持っています」と意気込みを語る。

 小島さんは、「『利用者さんの関わるところはどこでもすべて』と考えているので、教会ばかりでなく、企業との関係もこれから考えていきたい」と話し、就労支援も課題として挙げる。
 小池さんは、「作業所にはどうしても〝保護〟的なイメージがあるがそうではない。皆さんがタラントをたくさん持っています。それをどのように生かして、どのように社会に周知していくのか、わたしたちにとって一番大事」と語っている。

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 同所では毎朝の礼拝の他に、月に1度「ロングチャペル」の時間を設け、協力教会・関係諸教派から牧師を招いている。同所はルーテル学院大学の実習施設でもあり、同大学のほか、東京基督教大学でも訪問販売を行っている。

 商品は、同所での直接販売の他、2号店(練馬区桜台1‐7の駐車場)、オンラインショップ(http://hosannashop.thebase.in/)でも販売している。行政機関での移動販売もある。また「出張ホサナショップ」として、教会バザーなどへの商品の出品や訪問販売にも応じている。問い合わせは、ホサナショップ(練馬区桜台1‐12‐5 栖鳳マンション203号室、℡03・3991・7931、FAX03・3991・7941)まで。ホームページ(http://hosannashop.art.coocan.jp/index.htm)も参照。(3面に、ホサナショップからのプレゼントあり)

 

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