9条持つ日本人に「ノーベル平和賞」を 2014年4月19日

〝戦争は嫌だ!〟1人の主婦の声広がる
賛同署名2万超え、計43人が推薦人に

 「憲法9条を保持している『日本国民』にノーベル平和賞を授与してほしい」と願って主婦の鷹巣直美さん(日本バプテスト教会連合大野キリスト教会会員、神奈川県座間市在住)=写真下=が始めた署名活動が、大きな反響を呼んでいる。同賞の今年度の推薦締め切りである2月1日時点で、賛同署名は2万を超えた。受賞者の発表は10月。9月からは2015年度の推薦受け付けが始まるが、「憲法9条にノーベル平和賞を」実行委員会(共同代表=石垣義昭、鷹巣直美、竹内康代、星野恒雄)は受賞の後押しになることを期待して引き続き署名を募っている。

 2月1日の時点でインターネットを通して寄せられた署名は2万1433人分で、コメントは4251件。署名用紙で寄せられた3454筆と合わせてノルウェーのノーベル委員会に送付された。

 同賞のノミネートには、国会議員や大学の学長、神学など特定分野の教授、平和研究所の所長など、推薦資格を持った推薦人による推薦文が必要となる。実行委員会により公表された推薦人は、2月1日時点で13個人・1グループの計43人=別表。寄せられた署名は、これらの推薦人による推薦状の資料となる。

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 この活動は、2児の母である鷹巣さんが昨年5月に1人で始めたもの。学生時代、オーストラリアに留学した際にスーダンの難民と2年間共同生活を送り、内戦や紛争の話を聞いたことが、平和問題に関心を寄せるきっかけとなった。21歳の時にはタスマニアに3年間滞在し、毎週教会に通う中で、さまざまな背景を持つ同世代の難民に出会った。「戦争はやめてほしい」という声を直に聞き、平和への思いを強く抱くようになった。

 帰国後は、教会の青年会の活動を通して松山幸生氏(日基教団隠退牧師)から憲法について学ぶ機会を得た。同氏に同行して「九条の会」などにも参加するようになった。2007年、国民投票法の成立に危機感を抱き、教会の婦人会に相談して相模原市内の6教会に呼びかけ、「平和をつくる会」を立ち上げた。憲法を守りたいと、何人かの国会議員にも電話をかけて思いを伝えたが、効果が実感できなかったという。

 「日本人に『憲法は大切だ』と言ってもなかなか浸透しない。海外の教養のある人たちならば、憲法の大切さが分かるはず」。欧州連合(EU)が一昨年にノーベル平和賞に選ばれたことから、同賞が実際の功績だけでなく、理念を支援するための賞でもあることを知った。「憲法9条もすばらしい理念であり、日本の状況とはギャップがあるけれども、その理念に向かって後押ししてくれれば」との思いから昨年1月、「9条にノーベル平和賞を」と呼びかけるメールをノーベル委員会に送り始めた。

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 長男が生まれたばかりで外に出られなかったため、1人でできる活動を探し、ネット署名を開始。軽い気持ちで始めた活動であったが、5日で1500人の賛同を得た。ところが体調を崩してしまい、5日間で署名活動をやめることを決断した。

 集まった署名をノーベル委員会に送ったが、すぐに「やめるのはよくない」と思い直し、第2期の署名活動を開始。すると、今まで反応がなかったノーベル委員会から返信があり、推薦人が必要であることと、同賞は個人か団体に授与するものだという指摘があった。

 そこで、「憲法前文から始まり基本的人権の尊重と徹底した戦争放棄を謳った憲法9条を戦後70年近く保持している日本国民も、団体としてノーベル平和賞を受賞できる可能性はあるのではないか」と、対象を「9条を保持している日本国民」とし、推薦人を募り始めた。また、地元の市民活動家らに協力を求めたところ、多くの協力者が現れ、8月に実行委員会が立ち上がった。

 12月には、「憲法9条をノーベル平和賞に推す神戸の会」(事務局=エラスムス平和研究所内)と光延一郎氏(上智大学教授)が最初の推薦人となり、同賞にノミネートされることが決定した。一般紙で活動が取り上げられるようになるにつれ、推薦人も増えていった。

 「9条にノーベル平和賞を」と願う運動はこれまでにもあった。その一つ、米オハイオ大学名誉教授のチャールズ・オーバービー氏が立ち上げた「第九条の会」の日本事務局ともつながりを持つことができたという。

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 活動を続けてこられたのは、教会員の祈りの支援があったからだと鷹巣さんは語る。「教会の皆さんには活動のようすを祈祷会で逐一報告していました。お祈りしてくださることがすごく大きかった。神さまが一緒にいることを教えてくださり、逃げようとしても『大丈夫だから』と戻されることがたびたびありました。お祈りしてくださる方、協力してくださる方がいると、不思議と力が湧いてきます」。

 実行委員の岡田えり子さん(日本福音キリスト教会連合主都福音キリスト教会会員)の存在も、鷹巣さんにとって心強かったという。岡田さんは「9条は神さまの御心にかなったわたしたちの理想だと思います。この活動が改憲を阻止するための一つの手段となれば」と願っている。

 鷹巣さんは、「憲法9条を世界に先駆けて保持してきているというだけでもすごいことだと思う。その価値自体にも目をとめてもらい、この先、現実と理想の差がなくなるように頑張る力になってほしい」と語る。宗教者にとどまらず、さまざまな背景を持つ人が「戦争は嫌だ」という根本的な願いで一致することを目指している。

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 署名活動は、ノーベル平和賞が授与されるまで継続される。署名サイト(http://chn.ge/1bNX7Hb)を参照。同サイトでは、「日本国民全員が現憲法に賛成しているわけではありません」とした上で、「しかし、今現在も、今この時も、憲法を変えてはいません。これはひとえに、戦後、戦争への反省と平和への願いを込めて、大勢の方々が戦争の悲惨さと愚かさを語り継ぎ、祈りを込めて受け継がれてきた平和への願いがまだなお深く息づいているからだと思います」と強調。「受賞に向けて、『世界の平和を願い戦争しないことは良い事であり、守り、広めていこう!』という価値観の共有自体にも、意味があるのではないでしょうか」と呼びかけている。

平和憲法の素晴らしさを再認識

 推薦人の1人、松浦悟郎氏(カトリック大阪大司教区補佐司教)は本紙に対し、活動に関心を持った経緯について次のようにコメントした。

 「憲法9条をノーベル賞、あるいは世界遺産につなげる声は数年前も出ていましたが、実際にはあまり取り上げられず、具体的な運動にもならず、いつの間にかなくなっていました。一方、今日本は戦後69年間の中で最大の憲法の危機、平和の危機に直面しており、どうしたら『わたしにもできる』という提案を出せるかが課題になっていました。このような危機的状況の中で1人の主婦が声を上げ、実際に運動として具体的に動き出したことは大きな驚きであり、その方に拍手を送りたい気持ちでした。特に今のような憲法の危機的状況の中では、むしろ『反対』だけではなく、『代案』を示すことで人々に新たな視点と熱意を起こす必要性を感じており、その意味でこの運動がきっかけの一つになればと願っています」

 推薦状を書いた理由については、「わたしは常々、憲法前文に結ばれた9条が日本だけではなくアジア、世界の平和に深く関わっていることを多くの人に知らせるためにいろいろと活動してきました。わたし自身が推薦人となり、推薦状を書くことで、特に宗教者の中に少しでも9条を軸とする平和憲法の素晴らしさを再認識してもらうきっかけになればと考えました」と述べている。

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 「憲法9条をノーベル平和賞に推す神戸の会」は、呼びかけ人の岩村義雄氏(エラスムス平和研究所所長)を中心とする12人が12月23日に立ち上げたもので、1月31日現在、30人が名を連ねている。

 3月1日に神戸バイブル・ハウス(神戸市中央区)で行われた2回目の会合には鷹巣さん、岡田さんも参加。勝村弘也氏(神戸松蔭女子学院大学教授)が経過報告を行った。村田充八氏(阪南大学教授)は、准教授も推薦人になることを提案し、新免貢氏(宮城学院女子大学教授)は、賛同する在日外国人も会のメンバーに加わることを提案。それぞれ了承された。

 岩村氏は、「ナショナリズムの台頭、脱原発、沖縄問題、日本軍『慰安婦』問題、強制連行、教科書などさまざまなアプローチがあるが、当面、憲法に焦点をしぼり、平和、民主主義、人権の基本である憲法9条を掘り下げ、会は研究発表、講座、啓蒙活動をする」としている。

 

 

 

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