ドイツ人母娘3代が “しあわせ探し” 主演のM・ゼーゲブレヒトさんインタビュー 映画『バチカンで逢いましょう』 2014年4月19日

 日本でいよいよ公開される独映画『バチカンで逢いましょう』。夫に先立たれ、ローマ教皇に会うために一人でバチカンに向かった老女マルガレーテが巻き起こす笑いと涙のハートウォーミングな物語。公開を機会に初来日した主演のマリアンネ・ゼーゲブレヒトさんにインタビューした。25年前の作品『バグダッド・カフェ』の主演女優が、チャーミングなおばあちゃんになってスクリーンに帰ってきた。

――この作品へのオファーがあったときにどんな印象を?

 この映画ができるまでには長い時間がかかった。この映画化計画の2年も前から、クラウディア・カザグランデは原案としてこのストーリーを書き進めていた。

 この映画は実話で、主人公・マルガレーテの孫にあたる方がクラウディアさんだ。つまり自分のおばあさんのことを書いたのだ。クラウディアさんがまず私に連絡をとってきて、私のことを思い描きながら本を書いているから是非演じてほしいと。

 最初のミーティングで、この役は、天から与えられたプレゼントのように思った。2年に及ぶ本の執筆、そして準備期間があって、撮影が始まるまでに約3年かかった。この期間はほかに何もオファーを受けられない状況で、国際的にも大きなプロダクションの映画には出られなかった。でもこの3年間を我慢してでも、絶対にマルガレーテを演じたかった!

――マルガレーテ役のどんな点に惹きつけられたのか

 まず、この役柄のシチュエーションです。人は齢をとっても自由で、そして独立して何にも縛られずに生きることができる。老人ホームになんか行く必要はない! って。そういうシチュエーションに惹きつけられた。マルガレーテは、自分の家をもっていて一人で自由に幸せに暮らしていけたわけだ。教皇の前で懺悔したいことがあって、ローマに行きたいという望みは確かに持っていたけど、娘が老人ホームに入れようという話を持ってきたために、そこから逃げたわけだ。私ももしそういう立場になったら逃げると思います。ただ私自身の娘は非常に理解ある人。そういうことも言わないし、逃げなくちゃならない状況にもなりません。

――主人公マルガレーテは敬虔なカトリック信徒として描かれていて、バチカンへの旅の目的も教皇に会うことと設定されている

 私もカトリック信徒であるが、自分のことを異教徒的なカトリック信徒として考えている。イエスは私にとってとても大事な存在。子供のころから自分の模範として見てきた。イエスの「隣人愛」の教えや、語ってきた言葉はすべて私の模範です。ただ私は世界中の宗教について知りたいと思っている。仏教やユダヤ教、コーラン…こうしたものを見ていくと、結局はすべての宗教の根源は同じ。

 ドイツでは今、教会一致運動、エキュメニズムが盛んだ。特に若者は、その動きに傾倒していて、エキュメニカルなミサを率先して行っている。だから若い人たちが私たちに正しい道を示してくれると思っている。

 私は、トークショーの仕事がきっかけで、ゴルゴタの丘に登ったことがある。シナゴーグがありギリシャ正教会などいろいろな教会がある光景を見て、すべての宗教が共存できるようにするべきだと強く思った。

 新しい教皇フランシスコが即位したことは、とても嬉しいこと。フランシスコは天から送られてきた方だと思っている。即位してからさまざまなことを改革してきた。そんな新しいことをやっても大丈夫なのか? と心配する声もあるが、ご自身は、どんなことがあっても大丈夫ということで、ガードマンをつけてもいないし、住まいも変えていない。

 昨年のイースターの洗足式には、伝統を破って少年刑務所に行かれて、刑に処せられている若者たちの足を洗った。その中にはイスラム教徒の少女もいた。本当に素晴らしい話だと思う。

 教皇フランシスコが即位されてから、ドイツでもフランスでもそれまで無宗教だった人がショックを受けた。そして教皇について語る機会が多くなってきている。いろいろな改革をされているが、その一つとして、ヨーロッパで10万人を対象に離婚や同性愛、堕胎についてどういう考えをもっているか、アンケートをとって調べている。教皇は新しい時代の預言者であり、天から贈られた方だと思っている。 

 バチカンには、4回ほど訪れて、そこで行われているイベントなどを実際に見せてもらった。映画の中で描かれているように、全世界から人々が集まり、特に若い人が多い。笑いあったり踊り合ったりしている情景は実際の様子と同じ。人々はやはり共に生きていかなければならないし、宗教のことで喧嘩をする、あるいは紛争になるということは、あってはならない。

――映画に出てくる教皇は、ドイツ・バイエルン出身のベネディクト16世。あなた自身も、役のマルガレーテも同じバイエルンつながりということで、思い入れは?

 マルガレーテにとっては、バイエルン出身の教皇だったので、この方こそ私の教皇だ! と思った気持ちは強かったと思う。

 ベネディクト16世もまた新しいことをなさった。ご自分の意思で生前退位をなさった。今、教皇フランシスコとも協力し合っていらっしゃるし、あのお二人共が、「私こそが教皇だ」みたいなことを言い争うことがなく、お互いに尊重し尊敬し合いながら一緒に協力しあうことは素晴らしい。

 マルガレーテにとっても、おそらくフランシスコ教皇は親しみが持てる存在ではなかったかと思う。感情の起伏が激しいマルガレーテだから、フランシスコ教皇もタンゴダンサーであったとか、そういうところで共感できるところはあるだろう。

 「懺悔」というと笑われることも多いが、魂に暗い影を落としていることを言語化して話し、そして許してもらうということは重要だと思う。誰かが話に耳を傾けてくれること、それは神のなせる業です。

 人が何か自分がしてしまったことに対して後悔したら、その後悔したことを、言葉にして人に話すことが出来るのはとても重要で必要なこと。それによってはじめて人はその後悔から自由になれると考えている。

 カトリックではない人からは冗談でよく「あなたたちカトリックは、何か罪を犯したら、懺悔してしまえばいいんだから簡単だよね」と言われるが、そうではないと思う。懺悔をするという行為自体は、カトリックだけではなくすべての人にとって癒しになる。

 私の隣人に非常にナイーブな人がいて、ちょっと精神が病んでしまったことがあった。「あなたにしか言えないんだけれども」と彼女が話してくれたのは、「時に夫のことを殴ったり刺し殺したりする夢を見る」と。私は、「それはふつうだよ」と(笑)。みんなそういう夢を見るよって答えたら、なんてことを言うんだ! と言われたので、罪の告白を勧めた。

 ただ過去の経験からか、告解部屋の椅子には座りたくないというので、神父さんには、彼女と一緒に散歩してもらって、その間に話を聞いてもらうことに。神父さんは「聞いた話は私がヨルダンの川に捨ててくるから」と言ってくれた。彼女はその数日後にはまた元気になっていった。

 「信仰がない」と言っている人たちは私たちよりも信仰深いと思う。というのは、信仰を持たないのだという信仰にものすごく拘っている人たちだから。信仰をもたないのだという信仰を敬虔に信仰しているということ。

 私は、信仰を持たない人たちはかわいそうだと思う。何の宗教でも良いが、信じるもののある人のほうが、生きている間の暮らしも心軽やかで生きられるし、この世を去る時も、おそらく無宗教の人よりもたやすく去っていける。

――今年のイースターは4月20日。ドイツではどのように過ごしてきたのか

 私の家族もイースターは非常に大切にしていた。子供の頃から、聖木曜日からキリストの復活までの間を大切に過ごしてきた。演奏家を家に招いて音楽を奏でてもらい、詩を読むことを行ってきた。

 私は、イースターの儀式は癒しになっていると思う。これによって死というものを生き生きとしたものとして経験し、それを通じて、死によってすべてが終わるわけではない、ということも学ぶことが出来る。

 カトリック教会の素晴らしいところは、典礼にあると思う。プロテスタントになると、そうしたものを全て取り去った形になってしまい、プロテスタントの方々には「オーナメントが多すぎる」とか「黄金のものがあっておかしい」とか言われてしまうけれど、仏教国に行けば、金色のお寺とかたくさんあるし、それは一般的なこと。

 最後に、一言付け加えたい。トークショーでもよく言うことだが、私はカトリック。第一にキリスト教徒だ。キリスト教徒にも二種類ある。一つは信仰を受け入れて、信心するだけに終わるキリスト教徒と、それを実践するキリスト教徒だ。私は実践するキリスト教徒です。

※『バチカンで逢いましょう』は4月26日、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

【メモ】マリアンネ・ゼーゲブレヒト=1945年ドイツのバイエルン州シュタルンベルグ・アム・ゼー生まれ。16歳でミュンヘンに移り住み、学生時代から劇団で演劇を始める。83年にパーシー・アドロン監督の“Die Schaukel”で映画デビュー。84年、『シュガーベイビー』に主演し、エルンスト・ルビッチ賞を受賞。87年の国際的大ヒット作『バグダッド・カフェ』のヒロイン、ジャスミン役で大ブレイク、続けて『ロザリー・ゴーズ・ショッピング』(88)に出演。アドロン監督のその3作で人気は世界的なものなり、ハリウッドにも進出を果たす。映画出演は03以来、9年ぶり。主演作としては12年ぶりとなる。

【あらすじ】夫を亡くしたマルガレーテは、娘たちとの同居も老人ホームへ行くのも拒否し、ローマ教皇との面会を切望し一人バチカンに向かう。初めてのローマ。マルガレーテは、自分と同じく人生の秘密を抱える老詐欺師ロレンツォと出会う。やがて、ひょんなことから、廃業寸前のドイツ料理店のシェフとなって、店を復活させる。

 

© 2012 Sperl Productions GmbH, Arden Film GmbH, SevenPictures Film GmbH, Co-Produktionsgesellschaft “Oma in Roma” GmbH & Co. KG, licensed by Global Screen GmbH.

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