東京地裁 牧師による性加害を認定 女性信者らに計1540万円賠償を 2014年6月14日

 「今日からやっとゆっくり休めます」「脱会後、嘘つき呼ばわりされながら私たちの証言を信じ、多くの犠牲を払いながら励ましてくださった支援者の皆様に感謝しています」――茨城県つくば市などにある国際福音キリスト教会の牧師、卞在昌(ビュン・ジェーチャン)氏から性的被害などを受けていたと訴える女性は、5月27日の判決を受けて、安堵のコメントを伝えた。卞氏による性加害、パワーハラスメント、教団の隠蔽体質などをめぐる争いに、大きな影響を及ぼすことになりそうだ。

「マインドコントロール」も認める

 この裁判は、元信者の女性4人と男性1人が総額4620万円の損害賠償を求めた民事訴訟で、東京地裁はセクハラの被害を訴えていた原告4人の訴えを認め、卞氏側に計1540万円の支払いを命じた。男性原告が訴えたパワハラについては棄却し、卞氏側が原告やその支援者に対して訴えていた名誉棄損などについても棄却した。山田明裁判長は、卞氏側の証言に整合性が乏しいのに比べ、原告側の証言については概ね信用できるとして、信者に絶対服従を強いる過程で「マインドコントロール」が行われていたことも認めた。

 訴状によると、4人は2001年~08年の間、共同生活をしていた教団施設や卞氏の自宅で、胸や下半身を触られたり、キスや性行為などを迫られた上、「神のために働くには神と一体となることが重要であり、……神が選んで霊的権威を与えた主任牧師と性的な関係を持つことが必要」「指導者の霊的権威は絶対不可侵」などの「欺瞞的説法」を繰り返して、「反復継続的」に「性的自己決定権を侵害」されたと主張。妻のアイラン氏や、卞氏が今も代表役員を務める小牧者訓練会、株式会社小牧者出版などの関連団体もその実態を放置してきたと訴えていた。

 この事件をめぐっては、かつて卞氏らと親交のあった超教派の牧師たちが絶縁を宣言し、被害女性らの「救出と癒しを目的とする会」(FOE)や元信者らを中心とする「モルデカイの会」などが被害を訴え、謝罪を要求してきたが、卞氏らは一貫して無実を主張している。

 卞氏は、2010年2月にも準強姦罪で起訴されたが、11年5月、水戸地裁土浦支部が日時の特定ができないことなどから無罪を言い渡していた。原告は今回の裁判でもこの被害について訴えたが、東京地裁も同様の理由で退けた。

 判決を受け「モルデカイの会」は、長期間にわたってセクハラ行為を受けてきた被害について認められた点を高く評価し、「この事件によって受けた原告らの心の傷も大いに癒されると信じています」「牧師の権威を強調するあまり同じような悲劇を招いている日本の一部のキリスト教会における同種事件の被害者が広く救済され、その人権が回復されるよう、警鐘を鳴らし続けて参ります」とする声明を発表。改めて教団内での事件に共通する問題点として、「(被告が)自らを霊的指導者であるとしてその絶対的権威を説く権威主義的な教会政治を行い」「主任牧師や上位教職者を責めること自体が罪であると被害者に信じ込ませ、逆に、教会内部において訴えるものを非難する風土を醸成し、これらの被害事実を隠蔽してきたこと」などを挙げた。

教団は不服とし控訴の構え

 判決では、原告が卞氏の要求を拒絶できない心理状況にあったことを裏付ける理由として、「(被告が)一定の宗教的権威であり、高く尊敬、敬愛される存在であったこと」「被告に対して絶対的に従順であることを教えていたこと」「被告の影響力が信徒らの生活全般に及んでいたこと」の3点を挙げ、指導者の言動に疑問を抱くこと自体が誤りだと考え、セクハラ行為を甘受するに至った経緯についても詳述している。

 「モルデカイの会」代表の加藤光一氏は、「複数の女性信者が卞氏の部屋に呼ばれてマッサージをさせられていた」という牧師の証言や、卞氏が泊まりに来るよう女性を誘ったメール、卞氏が女性教職者を膝の上に抱えていた写真、牧師室には必ずベッドが置いてあることを示す図などが、証拠として新たに提出されたことを紹介した。

 同会の坂本兵部氏(東京サラン教会牧師)は、今回の判決に先立ち、5月12日付の韓国メディアが卞氏を「名誉を回復した宣教師」として大きく紹介したことを報告。弁護団は「2011年の『無罪』判決のみを根拠に、その他の疑惑をすべて覆そうとするもので、非常に悪意を感じる。誇張する必要はないが、事実を事実として韓国側にも伝えていくことが重要」と訴えた。

 一方、国際福音キリスト教団は5月27日付で、「教職者一同」名義による声明を発表。「この度の判決結果の内容には、一部受け入れがたいものも含まれておりました。この結果に対して、私たちは今後、真実を明らかにするために最善を尽くす所存です」とし、控訴する構えを見せている。

【卞氏をめぐる裁判の主な経緯】

1990年代~ 卞氏による性的被害が拡大
2008年5月 牧師、信徒リーダー、伝道師の辞職が相次ぐ
    8月 信徒リーダー2人が卞氏に被害者の訴えを伝える
     11月 信徒が個人的に卞市や側近教職者に和解を求める
     12月 「FOE」発足。複数の牧師が被害者から証言を聞く
      教職者による会合で卞氏が辞任を表明
      卞氏の呼びかけで「謝罪会」を開催。卞氏は沈黙
 09年1月 要請に対し、卞氏と教職者から期待する回答得られず
      牧師有志と被害者らが、卞氏と側近の教職者5人と対話
      卞氏以外は被害の事実を認める
   2月 「望みは絶たれた」と判断した牧師らが声明を発表
      卞氏代理人より、名誉毀損を訴える「通知書」届く
   3月 小牧者訓練会の代理人から「通知書」届く
   4月 声明を発表した信徒有志に「除名通知書」届く
      複数の被害者に発言の撤回を求める「通知書」届く
   5月 元教職者に「戒規通知書」届く
   7月 卞氏、講壇に復帰。記念礼拝でメッセージ
      4人の女性がセクハラで提訴
   12月 1人の男性がパワハラで提訴
      つくば中央署が刑事告訴状を受理
 10年1月 準強姦容疑で卞氏を逮捕、起訴
 11年5月 刑事裁判で卞氏に「無罪」の判決
      卞氏と「小牧者訓練会」が損害賠償請求事件を提訴
 14年5月 民事裁判で卞氏に賠償金支払いを命じる判決
      卞氏側による損害賠償請求は棄却

 

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